地上最強のカラテ


【ネタ】…映画 地上最強のカラテ(1976) 製作:梶原一騎/川野泰彦 監督:野村孝/後藤秀司
 
【説明】…空手道団体・極真会館を題材にしたドキュメンタリー映画作品
極真会館主催の「第1回全世界空手道選手権大会」の試合映像を中心に、世界各地の空手家たちが修練に励む姿をドキュメンタリータッチで映画作品化している。
世界各地に拡大する極真カラテをアピールする内容で、プロモーション映像としての色合いも濃い。
瓦、杉板、氷柱、水瓶、自然石、建材ブロック、ビール瓶などの試割りの様子も収録されている。

 
【独断】…空手家はとにかく物を壊す
大槻ケンヂさんのエッセイに、「空手家たちが素手で家を解体する映像を見たことがある」という話が載っていた。
空手家が、素手で、家を解体…?????
日本語になっていないようだが、文字通りの意味である。
木製の戸を正拳で貫通させ、柱を蹴ってぶち折り、瓦を頭突きで割りまくる。本当に素手で家一軒をぶっ壊したようだ。
 
「実践なくんば証明されず、証明なくんば信用されず、信用なくんば尊敬されない」
 
極真会館の祖、故・大山倍達総裁の言葉だ。
なるほど、破壊力の証明には実際に何かを破壊してみせるのが一番良い。
…って、何も家を壊さなくてもいいだろうに。刺さる人には刺さるかも知れないが、ハッキリ言って大半の人にとって何を目的とした映像なのか解るまい。アングラメタルのPVかと見まごう内容だ。
杉板や瓦などを割って、力量・技量を計る試割りは、いわゆる伝統派と言われる古流の空手にも存在する。しかし、昭和に新興されたフルコンタクト制の空手は、それを過激な方向にエスカレートさせ、とにかく色々な物を壊しまくった。
氷柱、水瓶、自然石、建材ブロック、ビール瓶、バット、スイカ、畳、車…等々。行き着いた先が日本家屋の破壊である。
 
そんなクレイジーな空手家たちの総本山、国際空手道連盟極真会館
本作『地上最強のカラテ』は、その極真会館の第1回世界大会の映像を中心に、極真会館の世界的発展、極真空手家たちの尋常ならざる修練などの様子が収められたドキュメンタリー映像作品となっている。
  
 
オープニングから快調です。
ニューヨーク・ブルックリンの大通りを大集団でランニングする空手家たち。彼らは歩道を占拠し、突然猛烈な勢いで稽古を始める。
「セイッ! セイッ! セイッ! セイッ!」
「セイヤァァァァァァァァァァァァァ!」
…セイヤーじゃなくてさ。
その周りを一体何事かと見つめる一般市民。そりゃそうだよ。歩道使えなくなってるから車道歩いている人もいるし。
ニューヨークだけではない。モントリオールアムステルダム、パリ、ロンドン、シンガポール、そして東京、世界各地の極真空手家たちが、全力で稽古に励み汗を流している。
 
次に「喧嘩十段」の異名を誇った芦原英幸氏の演舞が映る。
弟子をなぎ倒し、氷柱を粉砕し、手裏剣を投げる芦原氏。その技量たるや凄まじいのだが、なんかもうやりたい放題と言わざるを得ない。
他の空手家たちの試割りもあるのだが、普通にやってもつまらないと思ったのか、バク転をして板を割ったり、瓦を弟子の腹に乗せて割ったり、腹の上にでかい石を乗せてハンマーで粉砕させたり、かなり意味不明な内容になっている。
挙げ句の果てには、突進してくる車に真正面から向かって行って、跳び蹴りでその車を跳び越す者まで出る始末。もはやそれは空手なのだろうか。
…ただ、なんか凄い。なんか凄いことには間違いない。
そして、ゴッドハンド・マス大山のビール瓶手刀切りの映像が映り、真っ赤な文字で「地上最強のカラテ」とタイトルがバーン!と出る。…うーん、カッコイイ。
 
本編に入ると世界各地の有力選手たちの紹介、トレーニング風景が映る。
人間離れした動きをする軽業師ウィリアム・オリバー、後にアントニオ猪木異種格闘技戦を繰り広げる熊殺しウィリー・ウィリアムス、理論とパワーを兼ね備えた巨人チャールズ・マーチン、すでに日本の大会で実績を挙げているハワード・コリンズ…往年の海外の名選手たちが名を連ねる。
(この時、チャールズが「世界大会は総当たり制すべきだ」と言っているのだが、正気の沙汰ではない。何十試合するつもりだ。KOされた選手もずっと戦い続けるのだろうか…)
日本勢も、現代的トレーニングを取り入れた大型選手佐藤勝昭、妖刀村正の異名を持つ足技師大石代悟、下段廻し蹴りの鬼盧山初雄、空手界の貴公子と呼ばれた二宮城光、投げまくって極真のルールを変えた男東孝…といったお歴々。
今では全員自分の流派を起ち上げて極真会館から離れてしまったが(自分の流派が正当な極真空手だと言う人もいる)、彼らが極真に集って実際に戦っていたときの姿を拝むことができる。

 
第1回目の世界大会は、他流派からの参加もOK。
今現在も他流派からの参加は可能だが、その資格を得るためには世界選抜戦でトップクラスの成績を収めなければならず、その選抜戦に出場するためにも相応のフルコンタクト空手の実績が必要になる。実質、極真のフルコン空手から派生した流派以外で世界大会に出場するのは不可能だ。
第1回世界大会では、他流派からの出場資格に明確なものはなく、各国の極真勢の代表とはまた別に、香港のカンフー選手や、タイのムエタイ選手などが複数参戦している。つまり完全に別ジャンルの競技者が異種格闘技戦に臨んでいることになる。
この異種格闘技が“興行”としての呼び物でもあり、本作のナレーションでも空手vsカンフー、空手vsムエタイとして銘打っている。
どういう選手を連れてきたのか知らないが、この大会に出てきたカンフーの選手たちはぶっちゃけかなり弱く、全員直接打撃の試合は初めてなのではないかという打たれ弱さを見せる。
一方で、ムエタイ選手たちは慣れないルールながらもかなりの強さを見せる。さすが、未だにキックの世界では分厚い壁を誇るムエタイ。回し蹴りが鋭く強烈で、フットワークも軽やか。特にソムチャイ選手の動きは全出場選手中最も“現代的”と言える。
フルコン空手が競技として発展していく上で、軸足を回すタイ式キックの技術をふんだんに取り入れていったわけだが、その手本のような蹴り技を連発する。
 
 
…とはいえ、この大会は実質的に日本選手団の独壇場となる。
もちろん海外の強豪選手たちも脅威ではあったが、フルコン空手自体競技としての黎明期にあったので、選手層、技術水準ともに発祥地の日本が2、3歩リードしていたのである。他流派など入賞圏内に割り入る隙すらない。
当時の試合はまだ伝統派空手の組手形式が色濃く残っていて、間合いを取って、互いに一発ずつ全力で打ちに行って、また間合いを取って…というようなスタイルが散見されるのだが、この大会を制する佐藤勝昭は、前進しながら突きと蹴りを繋げて、距離が詰まったら膝を入れるという、非常に現代的な勝ちパターンを確立している。
準優勝の盧山初雄を初めとして、6位入賞した東孝なども、まだ受け技が確立されていなかった下段廻し蹴りを多用。海外勢がいいように脚を効かされてもんどり打つ。
選手間の実力差も激しく、半ばイジメのようになってしまっている試合もある。
 
当時は過激さをウリにしていた極真カラテ
今だったらあり得ない事だが、負傷者が続出したことをナレーションで自慢気に語っている。
「ああ、本当に人が倒れるんだ」「空手の破壊力は凄いな」という感じの喧伝なのだろうが、まぁ、子供に習い事としてやらせてみようとは…あんま思わないわな。
挙げ句の果てには、エンディングで負傷者の数までテロップ表記するし。

世界大会記録
参加国 35ヶ国
参加出場選手 128名
負傷選手 23名
重傷 16名
入場者 25000名

「重傷 16名」って、そんなもん堂々と報告するスポーツ大会なんてねーよ。
  
 
競技として洗練された昨今の格闘技とは違う魅力が本作にはある。
とにかく見ていて思ったのが、選手から一般道場生に至るまで、自分の“一撃”をもの凄く信じているということだ。
一発一発全力で打ち込んだ突きは必ず効くはずだと、みんながしっかりと信じている。洋の東西問わず、稽古に取り組む姿もやたらめったら一生懸命。
ときとして合理性や効率化がトレーニング強度にブレーキを掛けてしまう現代スポーツとは対照的であり、刺激的な内容であると言える。
日常生活でも心理学で言うところの“合理化”をしてしまっている場面は多分にあるわけで、本作に出てくる空手家たちの「とにかくやってやるぜ!」という姿勢は、本当に学ぶところが大きい。
 
空手に興味がない方でも見て損はない。是非一見を。
で、見たらみんなでブルックリンの大通りで稽古をしに行きましょう。
セイヤァァァァァァァァァァァァァ!
 
おわり

地上最強のカラテ [DVD]

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