範馬刃牙完結記念 板垣恵介ロングインタビュー
【ネタ】…人物 漫画家 板垣恵介(1957-)
【説明】…格闘漫画『範馬刃牙』の完結を記念して週刊少年チャンピオンで行われた作者の板垣恵介氏に対するインタビュー
週刊少年チャンピオン2012年39号に掲載。
範馬刃牙を描き終えた感想、今後の執筆活動や刃牙シリーズの展望などに答えた内容になっている。
【独断】…まずは、お疲れ様でしたァッ
範馬刃牙が先週号の週刊少年チャンピオンで完結した。
その感想も書いていないままなのだが、あえて先に板垣先生のインタビューに関して気になった部分を取り上げていきたい。
このエントリーをアップした時点では件のインタビューが掲載されたチャンピオンをまだ買えるので、魂の込もったインタビュー全文は是非チャンピオン本誌を手に取ってご覧になっていただきたい。
今回はおふざけなし。素で感想を書いていきます。
刃牙の世界観はずっと続く
まず何よりもこれだろう。
これは「刃牙の世界は板垣恵介が描かなくてもそこに存在し、継続し続ける」という観念的な意味でもあり、具体的に「刃牙はまたいつか再開する」という意味でもある。
物語にピリオド打ったと言ったけれど、文字通り一つの句読点を打ったという感覚しかない。
<中略>
(「いつか再開するのか」と聞かれて)そう解釈してもらっていいですよ。
と板垣先生は明言している。
つまり、刃牙を主軸とした物語の第四部という形なるのか、はたまた各キャラクターにより焦点を当てた群像劇的スタイルになるのかは定かではないが、とにかく刃牙の世界は今後も描かれるということだッッ!
「完結するなら完結しろよ」というご意見もあるかも知れないが、これは素直に嬉しかった。超長期連載とはいえ、刃牙の世界は引き伸ばしの出がらし状態ではなく、むしろ出せる引き出しは各キャラクターを経て増殖し広がりを見せていると思う。
格闘技や武道に限らず、あらゆることに関して板垣先生の造詣は深い。またその深みは時を経るごとに増していった。今後もネタそのものが尽きることはないだろう。
懸念があるとすれば、範馬一家の強さに食い込めるようなキャラクターは安易に出せないし、ピクルvs克巳のような死闘を必然性を以て描けるのかというところだが、これはもう板垣先生の腕を信じるしかない。
取るに足りない目的のために巨大な努力を払うというギャップには、カッコよさを感じた
刃牙の“親子喧嘩”を指して言った言葉。これは確かにカッコ良い。
自分たちの至極個人的な事情が世界を揺るがす…ともすれば、こういうのってセカイ系的な軟弱さや物語としての空虚っぷりが浮き出てしまうのだけど、刃牙シリーズの場合は、20年かけて、刃牙が死にもの狂いの努力をして血みどろになりながら勇次郎への挑戦権を勝ち取った経緯をきっちりと描ききっている。
そして倒さなければならない父親が途方もない強さの持ち主であるということを読者にイヤというほど示している。
映画『ダイ・ハード』の中で、ブルース・ウィリス演じる主人公は世界を救うような大活躍をするけれど実は奥さんの機嫌を取っているだけ。
…というのと同様に、世界最強を決める戦いなのに実はただの親子喧嘩、つまり家庭内の問題であるという考え方。
この考えの下に刃牙と勇次郎の闘いは描かれている。
刃牙自身も「範馬勇次郎が世界で一番弱いのならば俺は二番目でいい」と言っている。んなわきゃないんだが、そんな“たかが”を突き詰めていった先が史上最強決定戦であるというのは、やはりカッコ良い。
まず挙げるとしたら…やっぱりマウント斗羽かなぁ…(刃牙や勇次郎以外で思い出に残っているキャラは誰かと聞かれて)
私は刃牙シリーズにおいて斗羽の登場というのは一つの賭けであったであろうと思っていたので、これを聞いてニタリ…としてしまった。
というのも、パロディキャラも含めてジャイアント馬場はこれまで数多くの漫画作品に登場してきたが、ここまでガチンコでストーリーに絡んだ強敵として描かれたことはなく、インパクトの強さ、キャラクターとしての立ち位置、描かれるスペックの高さ、全てがある意味では“やっちまっている”キャラなのだ。各要素だけ見るともうこれ以上のものは出しにくくなってしまうというようなジョーカーなのである*1。
何しろまず本当に「馬場」だ。100人が見たら10000人は「これは馬場ですね」と言うくらい、そのまんまジャイアント馬場。プロレス界を表立って仕切り続ける「明るく楽しく激しい」あのお方だ。
で、その馬場がパンプアップした筋肉でもって飛び後ろ回し蹴りを放つわけである。地下闘技場のハイスペックレスラーである花田を瞬殺してしまうような、実力的にもプロレス界最強の男として登場する。
表舞台には出てこない秘伝の流派を操る謎の格闘家…とかだったら、ある意味いくらでも出しようはあるはずなのに、そこをあえて「馬場」という現実世界の超大物を使う。これは作品の方向性そのものを決めかねない一手だったと思う。
斗羽は自分にとって「こいつを出したらその後はどうするんだ」っていうくらいのキャラだったのに、彼を登場させてから不思議と魅力を持ったキャラを次々に生み出せるようになった。
板垣先生は連載前から温めていたキャラクターである斗羽をパッと出すことによって、キャラを頭の中で温めていても“次”は生まれないと思い至ったそうである。そしてその考えは最大トーナメント編で大爆発を見せ、以後のシリーズでも、度胆を抜くようなキャラクターがなんの脈絡もなく登場する(そしてストーリー的には破たんを見せる)という板垣スタイルを確立させていった。
「もし、あいつがこの世界に出てきたら面白いぞ!」っていう話がもう既に出ている
先ほどの斗羽の話でもあったが、板垣先生は「描きたい・発表したいキャラがいるからそれを描く」というスタイルでもって作品を作っている。
それが最も顕著に表れた例がピクルだろう。ほんっとうになんの脈絡もなく原始人ピクルが登場した。そして彼のためだけに登場エピソードが単行本丸々一冊外伝として描かれた。
また、シリーズ第二部の『バキ』も「描きたいヤツがいる」の塊だった。ヤバさ満点の死刑囚たち、やはりなんの脈絡もなく出てくるオリバとアライJr.。郭海皇が描きたかっただけじゃないのか中国大擂台賽。
板垣先生の「発表したいキャラがいるから我慢できずに描いてしまう」という癖を理解せずに生真面目にストーリーを追おうとすると、読者は「〜〜〜ッッ!!?」となる。それを理解している読者でも「〜〜ッ!!」となる。烈海王ボクシング編では数多くの読者が涙穴に水鉄砲をくらったジャック・ハンマーのようになったことだろう。
しかし、そうやって傍若無人に登場してきたキャラクターたちは確かに物凄く魅力的なのだ。
「やらないではいられないだろう」というのが実感かな。
描かずにはいられないようなキャラクターが既に生まれているというのは非常に心強く楽しみだ。
まずは休ませてください(笑)
週刊連載をしながら他の連載も掛け持ちし、数々のイベントや取材に足を運び、スポーツも欠かさないという板垣先生のバイタリティたるや尋常ではない。
日に30時間の執筆という矛盾が生み出したグラップラー刃牙シリーズ。板垣先生がマックシング状態のジャック・ハンマーのような貌になる前に、ここは一度ゆっくり激しく休んでいただきたい。
おわり
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