超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田


【ネタ】…マンガ 超機動暴発蹴球野郎 リベロの武田(1991-1992) 作:にわのまこと
 
【説明】…サッカー選手志望の武田弾丸が、埼玉県の「あけぼの高校」サッカー部に入り、全国大会を目指す物語
父親の影響でサッカー選手を志していた主人公・武田弾丸は、サッカー部のある高校を探し歩いていた。
そして、遂にたどり着いたあけぼの高校サッカー部でめきめきと頭角を現し、レギュラーポジションを獲得した。そのポジションは縦横無尽にフィールドを駆け回るリベロディフェンダー)であった。
作中のギャグの多さと常軌を逸した必殺技が特徴。92年秋の連載最終段階では、翌年春のリーグ戦開幕が決定していたJリーグにも触れている。
 
【独断】…FIFAワールドカップ南アフリカ大会日本代表決勝トーナメント進出記念エントリー
「強いシュートが撃てる=サッカーが上手い」
日本の二次元サッカー界において、この公式は常に付きまとう。よほどリアル指向の作品でもない限り、いわゆる“必殺シュート”なるものが登場する。
ボールコントロール? アジリティ? パス精度? タイミング? 素早いプレス?
確かにそういったものも大事だろう。…いや、というか現実のサッカーでは文句なしに必修科目だ。
しかして、二次元サッカーの世界では、とにかく、強いシュートを撃てるやつが勝ち!なのである。さらに、ボディコンタクトに強ければなお良し。
どれだけボール回しが交錯しようとも、キーパー(主に森崎)を吹っ飛ばすような必殺シュートさえ撃てばゲームは決まる。
逆に言えば、凡夫(主に来生)がどれだけ頑張っても相手ゴールを割ることなどない。
とにかく、ザコどもがゴール前まで死ぬ気でボールを運送して、ガッツの残っているエース様に必殺シュートをお願いする…というのが、日本の二次元サッカーの有様だ。
 
諸悪の根元は…言うまでもない、日本が世界に誇るサッカーマンガ『キャプテン翼』だ。
センターラインから放たれたシュートにゴールキーパーが吹っ飛ばされる。人間がゴールポストよりも高く飛んで高空からヘディングをする。ボールを受け止めたディフェンダーがシュートの威力でそのままゴールまで押し出される。…もはや、普通のゲームが成り立たない。
…でも、面白いんだから仕方がない。
少年たちの熱い友情、やたらめったら訪れる逆境、その逆境を乗り越えた先のカタルシス
高橋陽一先生の爽やかな絵柄とブチ切れた設定が魅力的なサッカーマンガの金字塔である。世界中のサッカーファン、サッカー選手から愛されている作品だ。
イタリアの一流サッカー選手トッティが、作中に出てくる「ネオタイガーショット」の練習をして足を骨折したのは記憶に新しいだろう。

 
そんな、『キャプテン翼』の系譜を引いてしまったのかなんなのか…週刊少年ジャンプで連載されていたハチャメチャなサッカーマンガが、本作『リベロの武田』である。
連載序盤こそわりとまともにサッカーをしていたのだが(いや、どうだろう…)、中盤以降は必殺シュート、必殺セーブ、必殺チャージのオンパレード。
元々プロレスや格闘技が大好きなにわのまことの先生、サッカーマンガであるはずのこの作品も、完全にギャグテイストの格闘技マンガと化している。
 
主人公の武田弾丸(たけだたま)は、低い身長と短い手足ながらも、驚異的な身体能力とサッカーセンス、そして不屈の闘志とギャグセンスを持ち合わせた超人的な高校生だ。
弾丸は埼玉県のあけぼの高校に入学し、サッカーでインターハイ出場を目指す。
しかし、あげぼの高校のサッカー部員達は、一部を除いてモチベーションが低く、能力的にも決して高いとは言えない。ズバリ、弱小校だ。
だが、リベロとして攻守に渡り大奮闘する弾丸の姿に引っ張られ、他の部員達も徐々にやる気を出していく。そして数々のライバル校を打ち破っていくのである。
 
…と、あらすじだけ見てみると、王道スポーツ漫画のようでもある。
スポーツ選手として恵まれない体だが、それを苦にせず闘い抜く主人公。弱小校が少しずつ光るものを見せていくスポーツ青春ドラマ。大筋としては至極真っ当である。
しかし、全編にちりばめられたテンションだけで押し切る力業のギャグと、パワー偏重主義の必殺シュート合戦によって、実際の内容は「スポーツマンガ」の枠からをも外れたものになっている。
   
 
まず、基本的に弾丸が人間の動きをしない。
弾丸は二頭身ででかいラグビーボールのような体型をしているのだが、その体を活かしてギャグを入れつつ変幻自在にボールを操るのだ。
踊りながらフェイントを入れるのなんて朝飯前。どこから出したのかわからない小道具やコスチュームを用いて異次元のサッカーを展開する。その珍奇な動きと、類い希なるガチのサッカーセンスによって、相手ディフェンス陣を切り裂いていく。
また、守備面でも超人的な動きを見せる。さっきまで前線でシュートをしていたと思ったら、自陣ゴール前まで弾丸の如く超速で戻って一発ギャグを入れつつ相手のシュートを防いだりする。
凄まじい運動量を求められるリベロ。弾丸はこの役割を最高に無駄な動きを入れてこなしきる。
 
何も、このマンガに出てくるキャラクターがみんな弾丸のように常軌を逸しているわけではない。基本的にはみんな普通に真面目にサッカーをしている…一応。
つまり、普通にサッカーをやっているところに、異星人の如く弾丸や超人ライバルたちが存在するわけだ。
もうちょっと具体的に説明すると…このマンガのキャラクターは主に3つのカテゴリーに分けられる。

① 普通の頭身で普通に真面目にサッカーをやるキャラクター。割合としては大半を占める。
② 普通の頭身で真面目にサッカーをやるのだが、超常的な必殺技を持つキャラクター。敵のエース格。
③ 弾丸と同じく、2、3頭身のギャグキャラ。全員くせ者で常時ふざけているが、サッカーの能力はかなり高い。
その他 … 白鳥くん。審判と相手チーム全員を肉弾戦で倒して勝とうとしたバカキャラ。

こんな感じ。
必殺技を持った選手が試合を支配するという点においては、キャプテン翼と共通している。
 
その必殺技だが、どれも完全に超常現象レベルの代物で、現実には決して真似できない威力を誇る。
主人公・弾丸の必殺技である「バズーカチャンネル(弾丸モード)」は、ボールに強烈な回転を掛けるシュートなのだが、その破壊力は家一軒を余裕で吹き飛ばすほどである。相手は死ぬ。
春雨高校のスーパーマッチョFW・石田堅吾の必殺技は「ストーンヘンジ」。一見ちょこんと蹴っただけのミスシュートに見えるが、そのスローに浮かぶボールがなぜか数百㎏の超重量になっていて、相手キーパーはキャッチしてもそのままゴールに押し込まれてしまう。
土砂第一実業高校のゴールキーパー・白鳥浪美夫は、イジメっこの気をフィールドに放ち「イジメの結界」を張り、ドリブルで結界内に進入してきた相手を電撃で黒こげにする。
風神高校のツートップ・由井兄弟は風の力を使って「サイクロンバリケード」を張り、味方ゴールに放たれたシュートを相手に跳ね返す。
…まだまだありますが、まぁ、もう、どれもこれもムチャクチャ。
他にも、審判の目に留まらない速さでモンゴリアンチョップを繰り出して相手を失神させるとか、フィールドに地雷を仕掛けるとか、全編そんな感じになっている。
 
ギャグはギャグで、完全にテンションだけの押し切りで、全く上手さはない。
「苦くてなんぼのコーヒー豆」とか「カステラ一番」とか「バームクーヘン」とか「バモス!(カズの真似)」とか「ん〜、カッコぶー」とか、ハッキリ言ってその大半が意味不明。何が何やらといったものしかない。
しかし、私がリアルタイムで読んでいた小学校低学年の時は、これらのギャグがなぜか猛烈に面白く感じられてしまったものである。
「てんてんマリマリ天地真理〜♪」とか真似したもんなぁ。
  
 
そんなムチャクチャな作品だったがゆえに、本作は単行本全9巻とわりかし短命に終わっている。
現在のネット批評を見てみても、賛否両論…というか否論が多数を占めている。
まぁ、そりゃ真っ当に批評しちゃったら穴だらけの作品だろうとは思う。たが、細かい指摘を抜きにして、そのバカっぷりを楽しめるのであれば、本作が凄く面白いことに間違いはない。
凄まじくローカルな話で申し訳ないが、私が通っていた学童クラブでは、毎週月曜日、ジャンプの発売日になると「今週のドラゴンボールどうだった?」という話題よりも先に「今週のリベロの武田どうだった?」という話題が出たものだ。
それだけ瞬間最大風速的には面白かった作品なのである。
本作に影響されて、サッカーをやっている最中にモンゴリアンチョップやドロップキックを放つようになるくらい面白かった。
 
意外と真面目にサッカーをやっているシーンもあるし、何しろにわの先生の作家としての地力もあるので、サッカーマンガの一形態として真っ当に見てみるのも良いかも知れない。
今のJリーガーたちの中でも、リベロの武田に憧れてサッカーを始めたという人も少なくないはずだ。
サッカー日本代表本田圭佑選手も、子供の頃によくバズーカチャンネルの練習をしていたとかしていないとかしていないとか。
残暑の夜に熱く読んでみるのはいかがだろうか。
バモス
 
おわり