舞-HiME


【出典】…アニメ テレビ東京 舞-HiME(2004.09-2005.03) 原作:矢立肇 制作:サンライズ
 
【説明】…サンライズが中心となって展開している、テレビアニメ、漫画、ラジオ、ドラマCDなどからなるメディアミックス作品
このエントリーでは、アニメシリーズ第一弾『舞-HiME』を紹介する。
奨学金を得て、風華学園高等部に転入することになった主人公・鴇羽舞衣(ときは まい)。舞衣はフェリーで風華学園に向かう際、「HiME」と呼ばれる超能力者同士の戦いに巻き込まれ、自身もHiMEの能力に目覚めることとなる。
転入後、舞衣は一時の平和な学園生活を満喫していたが、弟の巧海がオーファンという謎の生物に襲われているのを見て、HiMEの守り神である「チャイルド」を召喚する。
「チャイルドを持つならば自分の大切なものを賭けることになる」という、謎の少年・凪からの忠告。巧海を守るために、チャイルドを召喚した舞衣は、様々な思惑が渦巻く戦いに巻き込まれていく。

 
【独断】…二次裏で評判だったアニメ作品を見ていこうツアーその3

キャッチフレーズは「サンライズ初の萌えアニメ」。人気女性声優を多数起用するなど、話題性は高い。
 
タイトルの由来については、様々なタイプのいわゆる「萌えキャラ」が登場することから、「自分自身にとっての(My)お姫様(HiME)を見つけて下さい」という制作者の主張が込められている(北米でのタイトルが"My-HiME"であることからも分かる)ほか、「HiME」は「Highly-advanced Materializing Equipment」(高次物質化能力)の略称
 
同社が『ダーティペアダーティペアFLASH)』、『覇王大系リューナイト』、『天空のエスカフローネ』『ママは小学4年生』、『思春期美少女合体ロボ ジーマイン』、『センチメンタルジャーニー』、『セラフィムコール』等を手がけた実績を持つことをもって、『舞-HiME』を同社の「初の萌えアニメ」とすることを疑問視する意見もあるが、そのキャッチフレーズの裏を返せば、少なくとも同社は『舞-HiME』以前に萌えアニメを作っていたという意識が無いということである。このような意見の相違は、萌えアニメという用語が定義も曖昧なまま使用されていることに起因していると言える(「萌え」という用語自体、以前の制作時期には存在していない)。
 
各女性キャラクター達の性格に、過去のサンライズヒロインのそれが参考とされている。例として、命は『COWBOY BEBOP』のエド奈緒と詩帆は『無限のリヴァイアス』のミシェル・ケイと和泉こずえなど。

…だそうだ。
 
 
本編では、様々なHiME(当然、全員女性)が登場し、オーフェンという謎のバケモノと戦ったり、人間の軍隊と戦ったり、場合によってはHiME同士で戦ったりするわけである。
乱暴に言えば、「萌えに重点を置いた超能力バトル作品」だろうか。様々な“萌え要素”を持った女性陣が、「HiME」という能力で武器や怪物を召喚して戦うのである。レギュラーで出てくる男性キャラクターなんて3、4人しかいないが、女の子はワラワラモジャモジャカサカサと沢山出てくる。
家庭的、ツンデレ、野生児、悪女、辛辣ロリ、豪放、潔癖、ボーイッシュ、プレーン、気弱、妹分、メイド、ガチレズ、…等々等々、これでもか!これでもか!と言わんばかりに、自称「萌えキャラ」たちでガッチリと陣を固める。
  
 
…で、これが全く萌えない。まっっったく萌えない。
いや、良いキャラは沢山いるし、それを掘り下げた演出も十分になされてはいる。…が、それが“萌え”の方向に向かっていない。
というのも、ストーリー展開が白熱しすぎて、のんびり「あのコが可愛い」なんて言っている暇がないのである。第一話からそうなのだが、意外と全編に渡ってシリアスで、シャレにならないイベントと大迫力のガチバトルが次々と起こるのだ。
さらに、この世界、男性キャラは基本的に無力である。男性キャラたちが結構ぞんざいな扱いをされているので、あまりそちらに感情移入しようという気にならない。男性視聴者は、昔ながらの萌え萌えハーレムを期待していると痛い目を見るだろう。
おまけに、戦っている女性キャラが全体的に男前過ぎる。要所「カワイイ」と思わせるポイントはあるものの、基本みんな「カッコイイ」のだ。自分の「大切な者」を護るために、それぞれの意地と愛憎がぶつかり合う。
 
結果、『舞-HiME』はいつもの「大バトル+α」なサンライズ作品になっている。
しかも、HiMEたちが呼び出すチャイルドも結構ロボっぽかったりする。ロボットが好きすぎるサンライズサンライズの偉い人達は、ロボを戦わせないと死んでしまう病気にでも掛かっているのだろうか。
我々の世代には、AIC作品やあかほりさとる怨大に鍛えられた萌え魂がある(そんなもん捨ててしまえ)。こんなガチンコなバトル作品で「萌えアニメ」を騙るとは、正直、片腹痛いといったところだ。
 
  
…って、ここまで悪口を言っておいてなんだが、この『舞-HiME』、総じて言えばむちゃくちゃ面白かったりする。
いや、フォローで無理矢理そう言っているわけではなく、話自体は凄く面白い。上記のとおり、バトルそのものは凄まじく迫力があるし、ストーリーもどう転ぶのか分からない緊張感がある。さらにキャラはどいつもこいつも男前。つまり、まぁ、単純に男の子好きする作品なのである。
ただ、萌えはしない。
 
特に、珠洲城遥(すずしろ はるか)嬢のエピソードはあまりにも秀逸かつ男前である。
遥は風華学園高等部の3年生で生徒会執行部の部長をやっているのだが、彼女は別にHiMEではないのだ。この作品の中ではほぼ無力とも言える。学園の中にバケモノが出ても軍隊が入ってきても、実質的に何もできやしないのだ。
だが、遥はそれらの脅威に対していつも全力で抵抗するのである。怪奇現象が起きたと聞けば執行部総動員でその原因をとっ捕まえようとするし、軍隊が学園を占拠すれば一人で戦車を蹴り飛ばしに行く。
正直、やることなすことが空回り気味のキャラクターではあるんだが、とにかく意地を見せてくれる。
物語終盤、遥はとうとうHiMEの力を目の当たりにする。しかも、その矛先は自分に向けられてしまう。明らかに、抗えば死ぬ。
ここで、どう転ぶのか。
遥がこれまで空意地だけでギャーギャーやってきたのであれば、ここは退く場面だろう。つまり、HiMEやオーフェンの力を知らずに騒ぎ立てていただけの可哀相なキャラ、という事になる。その脅威が現実のものだと知って、そして戦えば自分は死ぬと知って、遥は一体どうするのか。
…言わずもがな、遥は最後まで戦い抜くのである。
結果どうなったかは伏せるとして、このエピソードは『舞-HiME』の中でも屈指の名シーンであるとともに、この作品の象徴とも言える場面になっている。
「男前」、「燃える」、だが、「萌えない」。
   
 
当然、遥のみならず、各キャラクターにそれぞれでかい見せ場が用意されているので、中盤以降のデッドスクリームな展開は視聴している側の心もハードに揺さぶられる。ぶっちゃけ、『太陽にほえろ!』(1972-1986)的に登場人物たちがガンガン死ぬ。
この作品、本当に話がどう転ぶかさっぱり分からないので、予備知識がない場合は、視聴していてその展開に一々驚かされることは必至である。最終回まで一切気は抜けない。
本放送当時の二次裏では、『舞-HiME』関連のスレッドがいつも困惑気味だったのを思い出す。「ボクらは“萌えアニメ”を見るつもりだったのに…」と。「なんでこんなにシリアスなバトル作品を見てしまったのか…」と。「萌え萌え詐欺か…」と。
物語終盤では、玖我なつき(くが なつき)のヒッチハイクシーンのコラージュと、舞衣の怒髪天シーンのコラージュばかりで、ストーリーに関してまともに触れている人は少なかったような気がする…。
萌えないしな。
 
 
…そんな『舞-HiME』。なんか悪口ばかり書いてしまって、視聴意欲をそそれた気もしないが、万一気になった方は是非見てみて下さい。
サンライズの誇る自称「萌えアニメ」…というだけでもなかなか貴重な一品です。
あくまで自称なんで、過度な期待はしないで下さい。
 
おわり