CASSHERN


【出典】…映画 CASSHERN(原作:吉田竜夫 監督:紀里谷和明 2004.4)
 
【説明】…1973年-1974年放送の、タツノコプロによるテレビアニメ『新造人間キャシャーン』の実写映画化作品
亜細亜連邦共和国ヨーロッパ連合の両陣営による長く続いた戦争により疲弊した世界。東博士は新造細胞の理論を発表し、研究の継続・援助を提案した。軍部の援助を背景に、博士の研究は進められることとなった。
一方、研究に明け暮れ家族を顧みない東博士に反発し、息子である鉄也は戦争に出陣する事を決意する。
一年後。 新造細胞の研究は遅々として進んでいなかった。そんな折、東博士の下に、鉄也の戦死が報告される。悲しみにくれる家族が研究所に集まる中、運ばれてくる鉄也の遺体。その時、研究所に異形の稲妻が落ち、新造細胞の研究用プールにおいて、新たな反応が起こり始めた。
研究用プール放り込まれてあった無数の死体のパーツが稲妻により新造細胞と反応して、得体の知れないヒトのようなものが次々と出来上がり、活動を開始した。
それを見た博士は鉄也の遺体を研究用プールに入れる。すると死んだはずの鉄也が息を吹き返すのであった。
死体から生まれた「新造人間」は人間を憎み、人類の抹殺を図る。生まれ変わった鉄也は、守り神「キャシャーン」として新造人間を食い止めようとするが…。
 
【独断】…としあきがやらねば 誰がやる
まずはこのPVを御覧下さい。
D
いや、もう爆裂にカッコイイ。映画公開時、このPVのショート版みたいなCMがよく流れていて、非常に興味をそそられたものだ。
ただ、私は出不精かつ金欠だったため、結局映画を見に行く事はなかった。その後、当然DVDレンタルなんかもされるようになったのだが、その頃には方々で劇場版キャシャーンの悪評が出回っており、そんなこんなでスルーしているうちに存在そのものを忘れてしまっていた。
しかし、つい先日、たまたまキャシャーンの事を思い出して、ニコニコで検索してみたらこのPVが見つかったのである。いやー、惚れた。確かに冗長臭い感じがヒシヒシと伝わるが、ヒーローアクションのツボを抑えている感じもバッチリうかがえる。クソだろうがミソだろうが、これはもう借りて見てみるしかない。
 
というわけで早速レンタルビデオ店に行ったのだが…いくら探してもDVDが見当たらない。
大手レンタルビデオ店だ。商品棚はジャンル別あいうえお順にキッチリ並べてある。それで見当たらないとはどういうことか…。
考えてみれば、もう5年も前に公開された作品だ。その間、邦画だって腐るほど新作が出ている。ビデオ屋の棚が四次元に管理されているわけでなし、ネットでも雑誌でもテレビでも酷評を喰らった作品に与えられるスペースなんざないのかも知れない…。
諦めかかかったその時、不意にイカしたマスクが目に付いた。なんと、お目当ての『CASSHERN』が平陳列されていたのだ。
「なんだ、あるじゃん」と思ったのと同時に、自分がタイトルを間違えて「シャザーン」を探していたことに気が付いた。確かに響きが非常に似ている。内容も似たようなもんだし、これは間違えても仕方がないと思う。

 
閑話休題
家に帰って早速視聴。もうこっちは、「実は隠れた傑作かも知れない」という期待と、「その期待を見事に裏切ってくれるんだろうなぁ」という期待でワックワクしている。
私はクソ作品を引き当てても、それはそれで喜んでしまうような気質なので、たとえどちらに転んでもイイわけである。ただ、その“クソ”にも善し悪しがあって、毒にも薬にもならないただの排泄物は「悪し」。“クソ”には違いがないのだが、それが極めてカレー味に近かったり、あるいは真新しい味がするものだったら「善し」としている。
無論、素直に「名作だった」というなら、それが一番良いのだが…果たして…。
 
…結論から言って、『CASSHERN』は失敗作だった。
これは単なる主観というより、明らかに、脚本が作品自体を度々裏切っているのである。一応ネタバレを控えて言える事を言うと、「テーマを詰め込みすぎて矛盾が生じている作品」という感じだった。そして大仰なテーマをいくつも抱えているわりには、所謂セカイ系的な、「木を見て森を見ず」な部分も沢山あった。単純なミスとして、登場人物同士の認知の矛盾もチラホラ目に付いた(個人的にはそこはあまり気にしないが)。
 
というか、凄まじく勿体ない作品なのである。
前半部分は意外とテンポが良く、普通に期待が持てる。退廃的な大亜細亜連邦の雰囲気も結構イイ。新造人間の親玉役である唐沢寿明さんは無闇にカッコイイし、何より、キャシャーンが覚醒したときの戦闘シーンがとにかくベラボーに魅せてくれる。
としあきキャシャーンの戦いを見るだけでも、レンタル代の元なんざ十二分に取れている。
なぜ、なぜ素直にあのままヒーローバトルを最後までやってくれないのか…。
 
紀里谷和明監督が目指したのは、「エンターテイメント」ではなく、総合芸術としての「映画」だったのだろうか…。
確かに私も、現代用語としての「エンターテイメント」の概念が、乱暴でアホっぽくて、なおかつ便利過ぎて嫌いである。この言葉を万能だと思っている人もあまり好きではない。だから、多少真面目くさった人が、自分の手掛けた作品に、「エンタメ」との差別化を図って何かしら大義をぶち込みたくなるというのも、解るっちゃ解る(俺も何様のつもりでこんな事を書いてるんだか…)。
だが、そんな真っ当に「映画」をやりたいなら、もっと勉強してからにすりゃ良かったのにと思う事しきりであった。
 
途中飛ばしたりせずに全部見たが、振り返ると、戦闘シーンととしあきの演技だけが見所としか言えなくなってしまう。
その戦闘シーンもごくわずかなので、アイスクリームに例えると、凄くでかいコーンの中にアイスがちょこっとだけ入っているような感じになっている。別に不味くはないのだが、コーンばっかりバリバリ食ってたらそりゃ嫌にもなってくる。
テーマはそのままでもいいから、全体的にスッキリ削って、中盤以降の描き方をちょっと変えるだけで、ふつうの傑作になっていたような気もする。そして、それは多分、そんなにリスクのある事でもなかったと思う。
 
 
しかし! ここまで言っておいてなんだが、実のところ、個人的にはかなり楽しめた。
ストーリーが不出来な分(結局「不出来」と断言…)、一体どういうオチがつくのかさっぱり解らなかったので、なんだかんだ最後までドキドキしっぱなしであった。格好良くて有り難いアクションが次にいつ来るのか、これもまた楽しみにしながら見られた。
これは、クソエロゲをプレイしているときに味わう感覚に似ている。
シナリオが変に病んでて、プログラムもいい加減で、何がフラグになっているのかさっぱり解らない。プレイヤーである私とのキャッチボールが成立せず、無闇に世界観が押しつけられる。とにかく絵は美麗だからエロシーンをなんとかゲットしようと、その世界を五里霧中で駆け回る。先の読みようがない選択肢、理不尽で残虐なバッドエンド、それらを何度も何度も繰り返し、泥まみれ血まみれカウパーまみれになりながら、なんとかかんとかお目当てのエロシーンに辿り着いて、男独り、むせび泣く…。
CASSHERN』にはそういった魅力がある。
 
いや、しかし、としあき率いる戦闘ロボ軍団とキャシャーンが戦うシーンだけは本当にムッチャクチャ格好いい。それを見るだけでもDVDレンタルする価値はある。ヒーローアクションが好きな方には是非にでもオススメしたい。
というかあれだけの迫力が維持できるのなら、紀里谷監督は『BIOMEGA(バイオメガ)』(2004-2009)の実写化すら可能なんじゃないかと思う。
…でも、あんな退廃のキワミのような作品を手掛けたら、いよいよ以て評判が最悪になるような気がしないでもない…。

CASSHERN [DVD]

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