「聖家族〜大和路を見に行ったよ」のコーナー


【ネタ】…映画 聖家族〜大和路(2010) 原作:堀辰雄 監督:秋原正俊
 
【説明】…映画『聖家族〜大和路』を見に行った際の面白エピソードを募集するコーナー
『聖家族〜大和路』はカエルカフェから公開された日本の映画作品。
主人公である画家の扁理(片桐仁)は、師匠の九鬼(高野ひろゆき)の死後、壁につきあたり絵が描けなくなる。刺激をもとめて奈良に向かうがやはり作品のイメージが浮かばない。そんなある日、九鬼の未亡人(堀ちえみ)の一人娘、絹子(岩田さゆり)から電話がかかってくる…
全国デジタルカエル系配給第4弾、秋原正俊監督「新感覚ブンガク映画」第11弾作品。ラーメンズ片桐仁は今作で映画初主演を務める。
 
 
【独断】…おまえをブンガク映画にしてやろうか!
エレ片ポッドキャストで何度か話題になっていたので気になっていた映画作品である。
主演はラーメンズ片桐仁さん。友情出演的にエレキコミックやついいちろうさんと今立進さんも出ている。
 
公開前に公式ページと予告編を見たときからランドマインな感じがヒシヒシと伝わってきて、“そういう意味”で期待していた作品なのだが、さらに、出演したやついさんの扱いがどうもヒドイらしいときている。もう、俄然興味が湧いてしまった。
そして公開後の各所ネットレビューがあまりにも最高だったために、私のハートもついにトドメを刺される。
「上映後、暴動が起きるかと思いました。」
「関係者(観客含む。)誰一人得をしていない。」
「悪いことは言いません。絶対に観ない方が良い!!」
…生粋の天の邪鬼としては、ここまで言われたら、もう観ざるを得ないだろう。特急スーパーあずさに乗って即行で新宿のK's cinemaまで観に行った。
『聖家族〜大和路』…果たして、その内容はッッッ…!!!!

 
…結論から言おう。この映画、爆裂に面白かった。
2010年06月12日のエレ片ポッドキャストで、この映画の“楽しみ方”をやついさんが語ってくれていたおかげで、放映中、ずっとドキドキニヤニヤしっぱなしであった。一度完全にツボに入ってしまったシーンがあり、笑いを堪えるのに必死だった。
 
出だし、小洒落た洋室の窓から外を眺める片桐さんが映る。格好いい倦怠感とでも言うか、その様がなかなか絵になっている。
正直、片桐さんがマジな演技をしているというだけでもちょっと面白いのだが(頭がモジャモジャだし)、万一この映画が真っ当に面白かった場合、ここで茶化してしまうとキチンとその真髄が味わえない。一応、私も一通りマジメに観てみようと決意する。
 
…しかし、映画の内容がその決意をドカンドカンと揺るがしてくる。
幕之内一歩デンプシーロールの如く、次々と強烈なツッコミどころがこちらを襲ってくる。
 
まず、片桐さんのシリアスな演技がもの凄くぎこちない。
いや、舞台でもコントでもドラマでもわりといつもぎこちないのだが、これまでの役柄はそれがコミカルな存在感を放って逆に印象としてはプラスだったのである。しかし、今作は作中でのツッコミが入らないので、ひたすらに浮いてしまっているのだ。
片桐さんが演じる主人公・河野扁理は、超一流の画家なのだが、スランプに陥って絵が描けなくなっている。自分が出したコンセプトを出版社に否定され、扁理は電話ごしに口論をする。
この場面が、まんま普段の片桐さんが言い訳をしているような感じになっている。セリフが棒読み…というかもはや素読みなのである。
「そもそも、ぼくが持っているものが非常に陰鬱なものでね… いや、だから、そこから脱却するとかそうじゃなくて…」
…思わず、「いいから描けよ片桐!」と言いたくなってしまう。
 
 
その他にもツッコミどころが満載である。
奈良公園のシーンでは、当然、名物である鹿の群れがパッと映し出されるのだが…なぜか、本当になぜか、ほとんどの鹿がケツを向けている画なのである。
なぜわざわざそんなアングルをチョイスするのか。
 
この奈良公園で扁理は漫画家志望の清美(秦みずほ)という女子大生に出会う。読んでいた本を落として気付かぬまま去る扁理。その本を拾う清美。再会をすることを思わせる、ちょっと運命的な出会い方だ。
…で、実際、このあと清美と再会するのだが、別にそこから何かが起こるわけではないのである。ただ再会して、「お互い頑張りましょうね」というだけなのだ。
…いや、本当にそれだけだ。話の本筋にはなんら絡んでこない。
なんなのか。一体なんなのか清美。
 
清美が自作の漫画を友達に見せるシーンにも、一々ツッコミどころがある(このエピソードもストーリーとは関係ない)。
清美が「昨日、また新作描いてきたんだ♪」と陽気に原稿を取り出すのだが、その原稿がまたなぜかヨレヨレなのである。とても「昨日描いた」とは思えない。端の方なんてちょっと曲がっちゃってるし。
わりと重要な小道具だろうに、なぜそんなにも扱いが雑なのか。
 
 
他にもまだまだあります。
細木夫人(堀ちえみ)が扁理との出会いを振り返る、およそ10年前の回想シーン。そこで、扁理は10歳くらいの子供になっていたりするのである。
つまり、逆算すると片桐さんは二十歳前後の青年の役をやっているということになる…
…確かにパッと見たところ年齢不詳だけどさ、片桐さん今年で37だぞ。ちょっと無茶し過ぎだろう。GGG並に無茶だ。勇気の力だけでなんとかしてしまっている。
せめて回想シーンで15、6歳くらいの子にすればまだマシだったのではないだろうか。
 
そしていよいよ“例”の場面… エレキコミック共演シーンだ。
エレ片ファンとしては、やはりここが一番の楽しみである。ポッドキャストによると、やついさんだけ照明が当てられず、顔を暗くされて映っているとのこと。暗闇に歯だけが浮かんでいるという噂だが、これが事実だとしたら個人的には堪らない名シーンだ。
 
…果たして、噂は本当だった。
本当にやついさんのところだけ真っ暗。一応「誰か居る」ことは判るのだが、誰だかはわからない。暗闇の中で何かうごめいていて、時折、歯だけがぼんやりと浮かび、グラスの底がキラリと光る。
各キャラクターの顔がアップになるシーンもあるので、そこでは存在がちゃんと確認できるかと思いきや…
「今立」→「片桐」…ときて、横並びで次はやついさんのはずなのを、なぜか戻して「今立」! そしてまた「片桐」。次の場面で「今立・片桐ツーショット」!
…これ、完全にイジメだよな。悪意しか感じられない。
あまりにもポッドキャストで言っていたとおりだったので、劇場で吹き出しそうになってしまった。友情出演させておいて映さないって、かなり高度な嫌がらせである。もの凄く面白かった。

0:55のあたりで左側に現れる黒い影がやついさん
 
しかし、そんな名シーンを上回る破壊神がこのあとに現れる。
「謎のババア」だ。
 
ヒロイン・絹子(岩田さゆり)に花を売る謎のババア(つまり花屋のおばちゃん)。
絹子がババアから花を受け取って帰ろうとした瞬間、走ってきた子供とぶつかって、絹子は転んで花を落としてしまう。
1、2メートル先で起きたこのアクシデントに、謎のババア…微動だにせず…!
全くのノーリアクション。絹子がしばらく倒れているにも関わらず、完全に見向きもしない。花を売ってお辞儀をして、頭を上げて、そこから先は全く動かずに同じ角度を向いているのである。表情もニュートラルのまま変わらない。
そのあまりの不自然さが強烈に面白く、私も笑いを堪えるのに本当に必死だった。
 
しかも、この謎のババアの話には続きがある。ポッドキャストでここまで↑は言われていたが、まさか、さらに追い打ちを掛けられるとは思ってもみなかった。
 
絹子は子供とぶつかって転んだ折、偶然、扁理がダンサーの沙羅(末永遥)と食事をしているところを目撃してしまう。
思い人の扁理が他の女性とデートをしているところを見掛けて、それを凝視する絹子。その視線を感じた沙羅はレストランの外を見て、「なにか…(こっちを)見てる…」と言う。
言われて、扁理がそちらを向いてみると…
…謎のババアが座ってこちらを見ているのである。
 
見てる見てる見てる!!!! ババア見てる!! ババア見てる!!!!
 
この時ばかりは、完全にノックアウトされてしまい、とにかく下を向いて押し上がる笑いを無理矢理潰していた。
…全く、殺す気か。面白すぎるわ、こんなん。なんなんだよ、あのおばちゃん。
全部ひっくるめて、故意に笑わそうとしていたのであれば、相当なセンスである。
もう、とにかく、謎のババアの破壊力が半端ではなく、劇中何度も思い出し笑いをしそうになった。

ガイドブックにも小さく写っていた謎のババア
 
最後の場面も季節がチグハグだし、なんか最初から最後まで凄い映画だった。
俳優陣は結構豪華だし、「平城遷都1300年記念事業」という凄い題目まで付いているにも関わらずこの内容とは…「奇跡」の一語に尽きるだろう。
「こうしていればもっと良かったんじゃないか」の「れば」すら見当たらない。
個人的にはお腹いっぱい、もう、大満足の作品であった。
このブログでは、何事に関しても基本的にガチのネガキャンはしないのだが、ネタ抜きに純粋に映画作品として『聖家族〜大和路』を観に行かれる場合、残念ながらその面白さは全く保証できない。また、ネタとして観に行かれる場合も、ある程度のトレーニングを積んでいなければ「面白い!」と感じることはできないだろう。
コアなエレ片ファンの方が、ラジオやポッドキャストで言っていた内容を確認するために観に行くのであれば、まだオススメできるかもしれないが…

ガイドブックにもこの写真が使われているが、載っている写真も映画本編ももっとずっと暗くされている
 
『聖家族〜大和路』。DVDは出ないので、今後観られる機会は非常に限られている。観ておくと…えー…レア…ですよ。
 
おわり

聖家族~大和路 映画「聖家族~大和路」ガイドブック

聖家族~大和路 映画「聖家族~大和路」ガイドブック

 
【追記】…客席は
私が観に行ったとき、観客は私を含めて8人だけだった。今のところ東京ではK's cinemaでしか公開されていないし、1日1回しか流されないはずなのだが、8人…
内訳としては、私の他に20代くらいの男性が一人、他は20〜30代の女性ばかり。なんとなく優しそうな雰囲気の人達ばかりだった。
あんな善良そうな人たちが、“ブンガク”のどん底に突き落とされたかと思うと不憫でならない。
 
おしまい