ここはグリーンウッド


【出典】…花とゆめコミックス(1986-1991) 作:那州雪絵
 
【説明】…私立緑都学園の学生寮「緑林寮」を舞台とした青春コメディ
不幸体質の主人公、蓮川一也が名門男子校の高校、私立緑都学園に入学し、寮の先輩らにおもちゃにされながらも、たくましく成長していく青春の日々をコメディタッチで描いた作品。
 
【独断】…ここが地獄の一丁目
むしろ“二丁目”である。
小学生のときにたまたまWOWOWでアニメ版の放送を見かけて、すっかりハマってしまった。
少年誌への露骨なBL浸食など、腐女子嗜好が過激化している昨今、そういった動向に別にまんざらでもない私。その感性のベースをつくってしまった作品がこれである。何せ少女漫画誌に出てくる男子寮だ。そりゃもうウハウハってもんです。
今思うと「小学生男児をとんでもない道に引き込んでくれたな」という感じだが、見ていた当時は、別にBLなんて全く意識しなかった。それだけ純粋に面白い作品だという事である。
単行本の空いたスペースに、作者である那州雪絵先生の近況や思ったことなんかが書かれているのだが、その一つに、男同士のちょっとしたやり取りに那州先生が感動したというエピソードがある。
 
作者がネーム作業のために喫茶店で唸っていると、高校生くらいの男性客二人が談笑しながら店に入ってきた。
席につき、二人とも雑誌を読みながら何の気なしにポツポツと話をしている。
そこに、ふと喫茶店の有線放送から尾崎豊の『シェリー』が流れだした。
男A「尾崎だ」
男B「え?」
男A「尾崎だよ、ほら『シェリー』」
男B「ああ」
と言ったきり、二人は黙る。
茶店には曲が流れ続け、男の一人は雑誌に視線を向けつつも意識は曲に向いている。
そのままの体勢で、二人はただ黙る。
そして、長いボーカルが全て終わったところで
男B「あのさ、この前の…」
と、おもむろに話を再開する。
ちなみに『シェリー』はという曲は5分46秒あるんだそうだ。
 
…稚拙な文面だけで分かって頂けるだろうか、この空気。
この出来事ともいえないような些細な光景に、女性である那州雪絵先生は、えらく感動してしまったとか。「男の子ってなんなんでしょう」と。
当然だが、男は女とはまた違う空気の読み方、作り方をする。女性の視点から見ればそれはとても不思議で、しかし同時に魅力的に映る場合もある。
この作品は、そういった男同士のコミュニケーションに対する憧憬に充ち満ちている。
小学生当時に読んでいた私は、シニカルな表現であるとか、キャラクターの本質的な魅力なんかをよく分かっていない部分も多かったのだが、度々出てくる男同士のカッコイイやり取りに非常に憧れた憶えがある。
というか、グリーンウッドが原因で「中学から寮生活をしたい」と言い出した事すらある(当時、親子仲が良くなかったため、親には「お前らなんかと一緒に住みたくない」という意味で取られた…)。
まぁ、実際の男子寮なんて、汗と涙となんか色んな汁にまみれたくっさいとこですよ、きっと(失礼)。
…それはともかく、今読み返しても凄く魅力的な作品だ。
「こういう男になりたい」という気持ちがじんわりと蘇ってくる。
ファンタジーが力をくれるならそれもアリだと思いますよ。僕は。
男子寮と男子高校生が大好きな人にはオススメ。