ZERO


【ネタ】…マンガ 小学館 ZERO(1990-1991) 作:松本大洋
 
【説明】…1990年から1991年まで『ビッグコミックスピリッツ』に掲載されていた松本大洋による漫画作品
主人公、五島雅は無敗のプロボクサー。余りに強すぎるため興行も最近では勢いが無いが、老トレーナーと組んでチャンピオンベルトを守り続けてきた。しかし、最強ゆえにボクサーは皆、このチャンピオンを倒すことを望んでいる。
五島はトラビスという南米のボクサーに興味を抱き、知り合いの新聞記者に現地まで見に行かせる。そして興行主に自身との対戦カードを組ませるのだった。
 
【独断】…至高のボクシング漫画(ネタバレ注意!)
創作をやっていらっしゃる方で…
中学時代、お絵かきノートに、最強設定のMy主人公を描いていた人はいないだろうか。
高校時代、それを省みて、恥ずかしくなってきて、そのノートを黒歴史にしてしまった人はいないだろうか。
大学時代、開き直って、再び最強設定の主人公を描いてみるが、やっぱりどうにも厨臭くなってしまった…そんな人はいないだろうか。
 
最強主人公の一つの“答え”がここにはある。
松本大洋『ZERO』。
 
主人公の五島雅は、ミドル級(70kg台前半)というプロボクシングの人気階級を、自らの聖域にまでしてしまった無敗の世界チャンピオン。10年以上、防衛回数にして20回以上、チャンピオンの座を保持してきた。
圧倒的な身体能力、常軌を逸した闘争本能。挑戦者は保って6Rが限界。倒された相手は、五島の異常な強さに当てられて、次々と引退していく。あまりにも孤高の存在である五島は、いつしか「ZERO」と呼ばれるようになっていた。
そんな五島も30歳を迎え、体力の衰えを感じてくる。自分が自分のボクシングをできる間に、リングに何を遺せるのか…。
 
五島が目を付けたのは、若干19歳、メキシコの国内王者トラビス・バル。
全戦全勝全KO。練習中に、16オンスグローブでクルーザー級の相手を殺してしまったという噂を持つ。
五島は、トラビスに、自分と同じく狂気を持った異能者の臭いを感じ取る。今までの相手とは違う「壊れないオモチャ」。
五島はトラビスに“種”をまくため、彼との闘いに臨んでいく。
 
五島はただ強く、ただ闘いを求める。それだけの男で、他に何もない。
スポーツ漫画でもバトル漫画でも何でもいいが、普通、主人公がただ強いだけなんてのは、虚しいものだろう。
主人公自身が魅力的で、その強さに人間くさい裏付けがあって、闘いの過程や結果に意味があって、初めて感情移入できる物語が成立する。しかし、本作『ZERO』はその一切を排している。
五島の闘いは、壮絶だが、ひたすらに虚しい。本作はそれを逆手にとって、その狂気と虚しさ自体を「これでもか!」と美しく描ききっている。
 
いきなりもの凄い直球のネタバレをするが、五島はトラビスに勝つ。そして彼は最後まで「ZERO」のまま終わる。
この作品、主人公・五島にとってはなんの救いもない話なのだ。
彼の具体的な生い立ちについては描かれていないが、色々と察せられる程度の回想シーンは出てくる。彼は、物語の中で最初から最後まで孤独のままだ。
トラビスは五島の居る高みを目指すが、そこまでは到達できなかった。
 
異能者同士だが、若くて体力のあるトラビス。大人しくボクシングをしていれば勝てたものを、トラビスは五島の狂気に付き合ってしまう。
自身に潜在している能力や狂気を全て引き出してくれる、“悪魔”五島雅に、打ち合いを挑むのだ。
しかし、どれだけ殴りつけても、より強い狂気を以て立ち上がってくる五島。トラビスは、次第に、自分がとんでもない化け物と闘っていることに気が付いていく。
一方、初めて自分と同じ異能者に出会した五島は、一気に「ZERO」としての本性を現していく。
五島はどこまでもどこまでも“高み”を目指す。もうトラビスが付いてこられないことにも気付かずに、ひたすら狂気の行き着く先を目指していく…。
  
 
…まぁ、もう、この試合は実際に御覧になって頂く他ない。
いや、確かに、「五島が勝つ」ってネタバレしちゃってるんだけどさ、そんなバレなんてどうでもいいくらいに凄まじいのである。
 
登場人物も全員シブくて、これまた格好いい。
特に、この作品、トレーナー勢が良いキャラをしているのだ。
本作に出てくるボクシングトレーナーは、みんな、五島の本当のヤバさに気が付いている。選手はイマイチそれが分かっていなかったりするんだけど、トレーナーは全員、五島の「ZERO」たる所以を見抜く。
五島のトレーナーである荒木は、もちろん五島の強さを理解しているし、トラビスのセコンド陣も、トラビスに決して五島の狂気に付き合わせないようにしていた。挑戦者カーチスのトレーナーも、五島を一目見て「私は彼が何故“ZERO”と呼ばれるかわかったよ」とか言ったりする。同門後輩・高田のトレーナーである金さんに至っては、五島の目つきを見て「時代が違っていたら沢山人を殺していた目よ」とまで言っている。
皆さん、流石である。…シブい。
 
絵にかなりクセのある作品なので、パッと見で毛嫌いされる方もいらっしゃるかも知れないが、ボクシング好き・マンガ好きならずとも、オススメしたい作品である。
「最強ゆえの孤独」
こんな風に字面にすると陳腐だが、実際そこにあるドラマは、圧倒的に美しく切ない。
上・下巻の二冊(新装版)しかない本作。ボクシング漫画は山ほどこの世にあるけれど、爆発力で言ったら、この作品の右に出る物はない…というくらいの逸品だ。
是非。
 
おわ…


…って、今回、なんらネタを挟まず、フツーにレビュー書いちゃったな。
いや、レビューにもなっていないか。あらすじを語っただけだ。これじゃ『ドラゴンボール』の話をするときの片桐仁さんと一緒じゃないか。
何か、何かネタになることは…
 
…み、雅って女の名前みたいだよね。
五島「雅が男の名前で何が悪いんだ! 俺は男だよぉぉぉ!」
ドグシャア!
…って、死んでしまうわ!
 
…お後がよろしいようで。
 
おわり

ZERO―The flower blooms on the ring………alone. (上) (Big spirits comics special)

ZERO―The flower blooms on the ring………alone. (上) (Big spirits comics special)

ZERO 下    BIG SPIRITS COMICS SPECIAL

ZERO 下  BIG SPIRITS COMICS SPECIAL