宇宙戦艦ヤマト 復活篇


【ネタ】…劇場用アニメ 宇宙戦艦ヤマト 復活篇(2009) 製作:株式会社エナジオ 監督:西崎義展
 
【説明】…『宇宙戦艦ヤマト』シリーズのアニメ映画作品
西暦2220年。移動性ブラックホールが発見され、これが太陽系に接近して地球を飲み込むことが明らかになった。
人類は、2万7000光年離れたサイラム恒星系惑星アマールの月への移民を計画。3億人ずつの移民を乗せた移民船団を第1次、第2次と出発させるが、それらはいずれも航海中に謎の敵から攻撃され、消息を絶ってしまった。第一次移民船団には主人公・古代進の妻、雪も搭乗していた。
人類は回遊惑星アクエリアスに沈んだ宇宙戦艦ヤマトを回収。アクエリアス内に建設されたドックでヤマトを修復・強化改装し、第三次移民船団の護衛艦隊旗艦とした。宇宙の辺境で貨物船の船長に就いていた古代は地球の危機に際して帰還し、第三次移民船団の司令かつ新生ヤマトの艦長に着任する。
劇場キャッチコピーは「戦士たちよ、ヤマトに乗れ。人類を救え!」「愛のために戦え!」。
本作は、1994年及び2004年に製作発表されながら実現せず、2008年に3度目の製作発表が行われ、現実の物となった。

 
【独断】…以下ネタバレ注意です
友人たちからの誘いがあって、元旦に劇場で見に行った。
正月にヤマトって、なんともバイタリティ溢れる選択だ。「さらば地球よ!」…年始から浮き世とおさらばである。
 
本作は『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ、26年ぶりの“正史”新作となる。これは二次元界隈において結構なビッグニュースのはずだ。
本編を見た事があるかどうかはともかくとして、ヤマト自体を知らない人はおそらくこの日本にいないだろう。現在、大御所となっている二次元作家の多くもヤマトを見て育ってきた。未だにヤマトのパロディは説明なしでも世代関係なく通用する。「総統も相当冗談がお好きなようで〜」と言えば、老若男女大爆笑必至だろう。
そんなアニメ界の金字塔『宇宙戦艦ヤマト』の完全新作、これを見逃す手はない。(とか言ってて、本当は私は『カールじいさんの空飛ぶ家』を見に行くつもりだったんだが…) 
 
例によって地球壊滅の危機。今回はブラックホールが地球に触手を伸ばしてくる。地球が「らめぇぇぇ!」なことになる前に、人類は惑星アマールへと移住を図る。
どうやったのか、6倍にパワーアップした波動エンジンを搭載し、強化改装を施された新生宇宙戦艦ヤマト
38歳になった古代進は、このヤマトに乗り込み、雑につくられた新キャラ達を率いて、移民船団を護り抜く。
地球の運命、人類の運命や如何に! というお話だ。

 
…で、結論から言うと、この映画、思いの外良かった!
年の初めからこんなツッコミ待ちの大作に出会えるとは思ってもいなかった。本当に幸先が良い。
 
導入部。
まずいきなり旧ヒロインの古代雪(旧姓:森雪)の服が破けるサービスシーンが出てくる。
雪さんが指揮を執る第一次移民船団が、航行中に突然謎の宇宙軍に襲撃されるのだが、その際の爆風が、見事なまでに体を傷つけず雪さんの衣服だけを綺麗にはぎ取っていくのだ。スケベ爆風とは、なんともPCエンジンチックな手法である。
あまりの不意打ち&不自然さに、のっけからこの映画に対する期待感が高まる。劇場の横の席を見てみると、友人のPも同様に感じたらしく、嬉しそうにうごめいている。
 
「この映画…ヤクいぞ…」
 
この期待に見事に応えてくれる形で、物語全編不意打ち&不自然の連続である。
いや、元々ヤマトはロマン重視の作品なのだから、あまり細かい事はどうでもいいし、多少のご都合展開もむしろ“味”だと思う。だが、それを前提にしても、本作はなっかなかかましてくれている。
以下、いくつかテキトーにそのかましっぷりを箇条書きにしてみる。
個人的に、全く問題ないのは「○」、ちょっとどうなのってのは「△」、これはひどいというのには「×」を付けてみた。ただし○が付いていても違和感があること自体は間違いない。
本編を御覧になった方は思い出しがてら、まだ見ていないという人はなんとなく興味本位で楽しんでくれたら嬉しい。
ちなみに雪さんのサービスシーンは、言わずもがな○だ。
  
 
  以前までのシリーズ作品と矛盾する科学理論
  持ち場を全然守らないヤマトのクルー。かなり学級崩壊気味
  移住先の惑星アマールとは国交があるにも関わらず、自分たちを襲ってくる星間国家連合のことはまるで知らない地球人類
  “ブシドー”の基、勝手に宣戦布告をして、星間国家連合主導国SUSに反旗を翻す惑星エトスのゴルイ提督
  しかも即行で特攻を仕掛けるゴルイ提督。遺された国民はどうする
  人道主義の基、やはり勝手に宣戦布告をする古代進
  SUSに虐げられるアマール国民のあまりにも中東チックなビジュアル
  アマール女王イリヤの涙目をアップにしたシーンがなぜか2回もある
  「腹減った」しかセリフがない通信班長の中西
  スパナ一本の修理で調子が良くなる波動エンジン
  「自分たちが改修した!」と豪語しておきながら、波動エンジンのことを全く解っていない天馬兄弟
  なんかヤマトだけが異様に装甲が固い
  話の都合のためだけに大村副艦長が特攻。『Vガンダム』のオリファーさん状態
  話の都合のためだけに墜落する地球の救命艇
  その救命艇では、古代進の娘・美雪だけが無傷で生き残って、他は全員死亡したっぽい
  娘だけはなんとか助け出した古代のセリフが「命を粗末にするな」。脚本家に言え! 脚本家に!
  「人類はこれまで地球に酷い事をしてきた」と、急に80年代エコチックなセリフを言い出す古代
×  終盤、SUSの総督がいきなり妖怪になる
×  しかも「ブラックホールを動かしているのは自分たちだ」とヒントをくれる。まさに『ソードマスターヤマト
  瞬時にブラックホール発生装置的なサムシングを発見するヤマトクルー
×  最後の見せ場で、波動砲の引き金を若手クルーから奪う古代。そこは新しい世代に譲ってやれ
 
…大体こんなところだろうか。
 
全体的に、若手の新クルーたちがヘタレだったり考えなしだったりするのが気になった。そこは「若さ」を演出しているのかも知れないが、尺の関係もあってか挽回する場面がない。
決定的なのが、上の箇条書きで最後に書いてある、波動砲の引き金を古代が奪うシーンだ。
血気盛んな新クルーの上条が最後の場面でガクブルを起こす。波動砲を撃つのは彼の役目だ。一体どうなる!?
どかっと艦長席に座ってりゃいいものを、ここで古代が上条の席に立ち、波動砲の照準を自分でやって自分で撃って命中させてしまうのである。
政治判断、艦隊指揮、操舵に火器管制と、今回の劇場版は完全に古代無双だ。
(もし三部作くらいを構想に入れていて、若手クルーたちが成長することを前提にしているのであれば、フリなのだとも言える…)
  
 
しかし、脚本に対する悪口は沢山あれど、アニメそのもののデキは決して悪くない。
艦隊戦はフルCGだが、戦艦アニメはCGとの相性もいいので、不自然なく、しっかりと迫力も出ていた。若干重厚感に欠ける感じもするが、『ヱヴァ』の新劇場版みたいなクオリティを期待していないのであれば、全然OKなレベルである。
最後、ブラックホールにヤマトが単独突っ込んでいくシーンもえらい格好良かった。
 
話だって大筋には間違いがない。
地球の危機に立ち上がる古代、真田。そして新しい世代たち。なくなりかけて初めて解る母星の価値。
圧力を以て銀河を統べる大国と、それに対抗する人々。
意志を持つブラックホール。それを打ち破らんとするヤマトの雄姿。
分かり易いストーリーだし、なんら問題はない。
 
ただ、何か妙な違和感が常に付きまとうのである。「わざわざそんな演出にしなくても…」という場面があまりにも多い。
 
今回の映画が旧作ヤマトファンをどれだけ納得させられたのかは分からないが、なんとなく『ヤマト』を見に行った若い世代として言わせて貰えば、総じて「どっちつかず」という印象が強かった。
ご都合主義でやりたいのならば、もっともっと元気でロマンと迫力に満ちた脚本にすれば良かったと思うし、多少込み入ったドラマが描きたいのならば、行き当たりばったりな説明展開の連続は避けるべきだった。
物語としては成り立っているものの、なんというか、教材的というか、テンプレートっぽいというか…要するに淡白なのである。
  
 
…図らずも2010年の幕開けに見てしまった『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』。
やはり『カールじいさん』にしといた方が良かったのではないか? …いや、あれもクレイジーな話だ。多分ロクなもんじゃない。
いっそのことカールじいさんが家ごと宇宙進出して、ヤマトと共闘してくれたら両方一緒に見られたのに。
家に波動エンジンを搭載して亜光速戦闘するカールじいさん。移民船団を身を挺して護るカールじいさん。ブラックホールに単機(単家?)突っ込んでいくカールじいさん。…是非とも見てみたい。
 
…まぁ、年明けヤマトってのも縁起が良さそうな感じはする。一富士、二鷹、三ヤマト。
今年も1年、よろしくお願いします。
 
おわり

この愛を捧げて(A)

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