SPACE BATTLESHIP ヤマト


【ネタ】…映画 SPACE BATTLESHIP ヤマト(2010) 監督:山崎貴
 
【説明】…アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の初の実写版映画作品
往年のアニメ『宇宙戦艦ヤマト』を実写化するという企画・構想案をTBSが立案。約5年かけてセディックインターナショナルと、西崎義展の養子である株式会社エナジオの西崎彰司の協力の下、西崎義展の許可を得て2009年10月3日に正式に製作発表された。
監督は実写とCGを融合させた作品に定評のある、『ALWAYS 三丁目の夕日』などの山崎貴が務め、主演にはSMAP木村拓哉が起用された。
2010年12月1日公開。キャッチコピーは「必ず、生きて還る。」

 
【独断】…以下、微ネタバレありです
昨年は正月に『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』を観て、大晦日にこの『SPACE BATTLESHIP ヤマト』を観た。東宝の思惑通り、個人的には完全にヤマトイヤーになってしまった。
 
ただ、正直、『復活篇』の方はハズレだったと言わざるを得ない。ヤマトの“正史”の続きが見られるということ以外には嬉しい点がほとんどなかった。
人物像が半ば記号化されてしまった旧作キャラたちと、引き立て役に徹する新キャラたち。変にややこしいストーリーは古き良きご都合設定と全く噛み合わず、終始違和感が付きまとう。CGアニメによる艦隊戦は見応えがあったが、目を見張るというほどではなかった。
 
それでも、とりあえずなんとかかんとか続編が作られたというのが良かった。
ヤマトというと、もはやパチンコやコントのネタくらいでしか目にすることがなかったので、オフィシャルな形で全身全霊を懸けた続編が出たというのは、それだけでとても素晴らしいことだと思う。
マクロスF』だって、製作発表がされたときは「今、マクロスですかぁ!?」ってな感じだったもんよ。続編が作られれば一応化石化はしないし、新しいアプローチだって生まれるかもしれない。

 
…で、そこに来ての『SPACE BATTLESHIP ヤマト』である。
とにもかくにも目を引くのは、「主演・古代進役:木村拓哉」。どうなるのか全く想像がつかない。つかないが、この映画がどうも“本気”であるということは間違いない。
ヒロインの森雪役には、格闘技イベントで妙に的確なコメントをする美人でお馴染みの黒木メイサさん。真田志郎役は柳葉敏郎さん。島大介役は緒形直人さん。そして沖田十三役には山崎努さん。その他のキャストもガチムチに固めてある。
製作はROBOT。監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』などを手掛けた山崎貴さん。ド本気である。
 
実際に劇場で観に行く前に各映画レビューサイトを見て回ったのだが、本当に文字通りの「賛否両論」になっていた。
絶賛している人も沢山いるし、こき下ろしている人も沢山いる。中間意見があんまない。
賛は主に「映像が凄かった」「ストーリーにも素直に感動した」というご意見。
否は主に「なんだよあの強引なラブ展開は」「あんなチャラいのヤマトじゃない」というご意見。
さぁ、果たして…
 
結論から言うと…この映画、かなり良かった! 思っていたのより全然面白かった。
例によってゲラ魂が発揮されて面白く感じたというのもなくはないんだろうし、批判意見が多いのもよく解る内容ではあったのだが、大筋としては非常によくできた作品だと思った。
ハッキリ言ってバカ臭いシーンは山ほどある。ツッコミどころ満載だ。ご都合主義の塊と言える。さらに言えば旧作ヤマトのキャラクター性はガン無視。最近の“よくできた映画”らしく、強引に恋愛を前面に押し出す様も滑稽。
でも、それも全部引っくるめて「良かった」と断言できる。
 
あらすじは以下のとおり

西暦2199年、地球は謎の異星人「ガミラス」の攻撃で滅亡の危機に瀕していた。ガミラスの遊星爆弾による攻撃で海は干上がり、地球上の生物の大半は死滅した。
残された僅かな人類は地下都市を建設してガミラスの攻撃に耐えていたが、地下にまで浸透してきた放射能によって人類の滅亡まであと1年余りに迫っていた。そんなある日の事、地球上にイスカンダルからのメッセージカプセルが届けられた。そこに記されていたのは、波動エンジンの設計図とイスカンダルの正確な座標であった。
後日、地球防衛軍はそれらの情報に加えて、彼らには放射能除去装置を渡す意思があると発表。その情報を信じ地球の最後の希望を乗せた宇宙戦艦ヤマトイスカンダルへと旅立った。
 
WikipediaSPACE BATTLESHIP ヤマト」より

根幹の設定は元のヤマトとほぼ同じ。
本作は古代進がヤマトに乗るまでのエピソードと、イスカンダルへの旅、ガミラスとの戦いを駆け足で描いていく。

 
気になるのは登場人物たちがどのように描かれているかだろう。
冒頭に驚かされるのが、戦闘機に乗っている森雪である。しかもエースパイロットらしい。確かに原作アニメでも男勝りではあったが、まさかのG.I.ジェーン*1
本作ではヤマトに雪以外の女性クルーが多数搭乗しており、雪は別にヤマト唯一のヒロインという感じでもなくなっている。アニメでは男性だった脇役たちもチラホラ女性に変えられていたりする。
何せ佐渡先生を演じているのが高島礼子さんだ。
あの落書きみたいな顔したおっさんが美人女医に大変身である。一升瓶と猫を常備しているのは相変わらず。というか、それがないと佐渡先生なのかどうかがわからない。
…まぁ三国志于禁だって、アニメで女にされて曹操に恋心抱いていたんだからこれくらいアリだろう。
そして、古代進は完全なる木村拓哉さんである。
「もっと気楽に行こーぜ」「っんだよ」的な、いつものあの木村拓哉さん。スマートで仕事のできる感じのイケメンになっている。
で、山崎努さん演じる沖田十三艦長が腹に一物二物もありそうな感じで凄く悪そう(これもまたカッコイイが)。
 
…つまるところ、登場人物たちはアニメとは別物になっている。
当然、原作というベースありきで役柄もストーリーも描かれているが、「原作と違っていても良い」という開き直りも感じられる。ところどころ役者さんに当て書きしている部分もあるのではないかとすら思う。
特にヤマト直撃世代ではない俳優陣は、原作ヤマトに対して別に思い入れがなかったりする*2。沖田艦長を演じた山崎努さんも原作を見たことがないし、監督からも「見ない方がいいです。先入観なしでやって下さい」と言われていたそうだ。
 
でもって、この開き直りこそが良かったと思うのだ。
引き合いに出すのが同じヤマト作品というのが皮肉になってしまうが、『復活篇』はそういったスタンスが非常に半端に感じられた。旧作ファンを喜ばせるようなやり取りは少ないし、新風というにはあまりにも時代錯誤で古臭い展開が多かった*3
SPACE BATTLESHIP ヤマト』はきちんと現代風の娯楽作品に仕上がっている。
迫力のある戦闘シーンと、名優たちが脇を固めた人間ドラマが緩急つけて展開される。メインに座るのは花形スター。
そして物語のシメも実に潔いと思う。本作は古代進を徹底的にヒーローに描き上げ、最後の最後までそれを貫いている。
つまり、少なくとも、素直に特撮映画を観に行った人からすれば面白い作品には違いないのだ。 
 
映画の見方に正しいも何もないのだろうが、この作品に関しては、観る前の心構えとして一つオススメがある。
それは「平成ウルトラマン映画を観に行くつもりで観る」である。
カッコイイ男とカッコイイ女がとにかくラブに転がる。
艦内で人間ドラマをやっているときは敵の攻撃が止む。
わっかりやすくキャラ立ちした脇役たちが沢山出てくる。
子供も見られる特撮映画なんだから別にそれでいいのだ。で、大人が見てみても案外面白いし、迫力もある。
 
逆に言えば、旧作ヤマトの雰囲気が好きな人からすると、「こんなのはヤマトじゃない」と言わざるを得ない内容になっている。
それだけは否定のしようもないだろう。そこをある程度犠牲にした上で本作は成り立っている。
個人的には、デスラーが愛嬌のない謎の鉱物生命体になっていたのが寂しかったが、映画の尺で地球を壊滅させた男と仲良くなるのは不可能だろう。実写版で顔色の悪い紳士を登場させるのも難しいし。ここは完全に“悪”に徹して頂くしかない。

 
撮影の大半がグリーンバックで行われた本作『SPACE BATTLESHIP ヤマト』。VFXは高いレベルで描かれているので、単純に見応えもあります。
肩肘張らずに観に行くと吉です。一富士、二鷹、三大和。年明けにでも是非。
別に「あなたの一番愛する人と一緒に観る」必要は全然ないです。ポップコーンの咀嚼音全開で「ボクもメイサさんに殴られたいなぁ」とか思いながら観てみてください。
 
おわり

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」オリジナル・サウンドトラック

「SPACE BATTLESHIP ヤマト」オリジナル・サウンドトラック

*1:映画の尺だと前線に常に出ていないと目立たないだろうしね

*2:そもそもヤマトブームの中核は第1世代の「オタク」である。たとえ年齢的にヤマト世代だったとしてもコアなファンは意外と限られている

*3:いっそガイナックスが丸々作ってしまった方がセンセーショナルで面白そう