戦闘妖精雪風


【出典】…OVA 戦闘妖精雪風(2002-2005) 原作:神林長平 制作:GONZO 企画:飯田馬之介 監督:大倉雅彦
 
【説明】…SF小説『グッドラック 戦闘妖精・雪風』(早川書房)を原作としたオリジナルビデオアニメ作品
南極大陸の一角に突如出現した巨大な霧の柱。それは異星体ジャムの地球侵略用超空間通路だった。地球防衛機構は「通路」の向こう側、惑星フェアリィ上でジャムの侵攻を食い止めるために、フェアリィ空軍を設立し、前哨基地を置いた。30年以上に及ぶ人類とジャムの戦いに、今だ終わりは見えなかった。
人間を信頼するより機械である戦術戦闘電子偵察機雪風」を信頼する青年、深井零が愛機に乗り戦闘情報を収集するうちにジャムと接触する。ジャムは零と雪風に興味を示す一方、人間に対してあるゆる手段を使い戦いを挑んでくる。この戦いは何のための戦いなのか。やがてジャムはフェアリィ空軍に総攻撃を開始する。

 
【独断】…人間嫌い必見
「きれいなおねえさんは、好きですか?」(松下電工
愚問である。綺麗なお姉さんが嫌いな者などこの世にいるはずもない。
そして、それと同様に、「きれいな戦闘機」が嫌いな者もこの世にはいない。
本作OVA版『戦闘妖精雪風』は、美しい戦闘機が繰り広げる壮絶な戦いを涙を流して拝み見る、そのためだけの作品である。
まぁ、とにかく空戦が爆裂に美しくカッコイイ。

 
本作は、直接的な戦闘で言えば、人対人のそれは描いていない。人類(フェアリィ空軍)と無尽蔵に現れる謎の敵「ジャム」との戦いが描かれる。
だから、一般に軍隊が出てくる作品がテーマとしがちな「戦争の悲惨さ」とかそういうものはない。かといって、侵略者を倒して全てが解決するような「英雄譚」でもない。
ジャムという不可知かつ強大すぎない外的障害に直面したときの人類の対応が、非常に面白い形でシミュレートされているのだ。
各国がエリート人員を出し渋った結果、社会不適合者が集められていくフェアリィ空軍。ジャムの存在すら政治利用しようとする軍上層部。そもそもジャムの存在を信じてもいない一般市民。人間の介入を排するかのような無人戦闘システムとジャムの戦い。
…どうだろうか、このやさぐれた設定を聞くだけでもゾクゾクするだろう。
主人公の深井零からして、他者への関心が薄く、自機の「雪風」にしか心を開いていない。若いみそらでAI萌えとは…世も末である。
とにかく、そのアンニュイな雰囲気のドラマと、豪速を極める空戦のギャップがたまらなくカッコイイ。

 
ジャムは基本的に撒菱(まきびし)のような形の戦闘機として現れ、フェアリィ空軍の戦闘機隊に攻撃を仕掛けてくる。
アニメを見る限り、人間のパイロットでジャムに対して優位に戦えているのは主人公の零しかいない。他の機体・パイロットは大体画面にアップで映るとやられる。
その零も毎回かなりやけっぱちな戦いぶりで、自律コンピューターの「雪風」のフォローがあってなんとか生き延びているという感じだ。また、雪風雪風で、零からの絶対的な信頼のもと、かなりムチャクチャな戦闘をやらかしたりする。
ジャムの殲滅に徹する雪風と、その雪風にしか心を開かない零…。この雪風と零のクレイジーな二人三脚が、結果的にジャムの存在を打破していくことになる。
ジャムは学習能力を持ち、人や機械の能力やシステムを自分たちの中に取り込んでいく。しかし、プログラムでありながら人の“揺らぎ”をも共存させる雪風(と零)の存在は、彼らにとって強烈なイレギュラーとなる。
 
人とAIの融合がイレギュラーとして特別な存在になっていくという話は、『攻殻機動隊』に出てきた「人形使い」のエピソードを思い出す。
外務省がハッキングの遊撃手としてつくったAI「プロジェクト2501」(通称:人形使い)が、ネットを彷徨う内に「社会」や「企業」や「国家」を知り、自分自身を発見していく。その結果「自分は生命体だ」と言い出し、生物としての“揺らぎ”を獲得するため、最終的には人間である主人公の草薙素子と融合してしまう。
雪風の場合は、人形使いほど積極的でも狡猾でもないし、まして直接的な融合などあるはずもないのだが、零の熱烈なアプローチを悪からず思っているフシはある。少なくとも、雪風自身も零を必要とはしている。

 
そんな雪風と零の織りなす空戦は、この上なく、美しく激しく切ない。二人とも本当にムチャクチャする。
少なくとも、綺麗な戦闘機が高機動戦闘しているのを見るとハアハアしてしまうような人は必見だ。
OVAは全5話しかないので、気軽に見られると思います。興味がおありでしたら是非。
もう、このアニメに出てくる戦闘機は⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン なんてレベルじゃない。コォッ!だよ、コォッ!

 
おわり

アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風

アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風

 
【追記】…『戦闘妖精少女 助けて!メイヴちゃん』(2005)
なぜ作ったし。
OVA版『雪風』のメカデザイナー山下いくとさんが、パソコンのデータが消えた腹いせに、戦闘機「メイヴ」を美少女に擬人化して描いたキャラクターが「メイヴちゃん」である。
雪風』公式ページにその姿がアップされるやいなや話題沸騰。悪ふざけが高じて、フィギュア化、アニメ化までされた。
ハッキリ言って、アニメ本編に有意義な要素は全くない。
唯一の見所は、同じく擬人化された「スーパーシルフちゃん」のパンツに書かれた雪風ロゴのみである。このロゴ、原作者の神林長平先生の直筆なんだとか。
ちなみに、声優陣は妙に豪華で、ヒロインのメイヴちゃんに声を当てているのは、なんとあの水樹奈々さんである。
このブログにしては珍しく、「誰にもお勧めしない作品」であるが、水樹さんが出ている以上、羽多野渉さんにはオススメしたい。
ただし、メイヴちゃんは原始人のようなキャラ設定なので、ほとんど喋ることもない。

 
おしまい