SPEED GRAPHER


【ネタ】…アニメ SPEED GRAPHER(2005) 原作:GONZO 制作:GONZO、TAP  監督:杉島邦久
 
【説明】…GONZO制作のハードコアエロスサスペンステレビアニメ
舞台は「失われた10年」の混乱から脱し、一部の富める者だけが我が世の春を謳歌する“快楽都市”と化した東京。
元戦場カメラマンの雑賀辰巳は、セレブリティーのみが出入りできるとされる闇の社交場六本木倶楽部の潜入取材を依頼される。潜入に成功した雑賀は、六本木倶楽部の深奥で行われる儀式の巫女、女神として崇められる謎の少女、天王洲神楽と出会う。
雑賀は助けを求める神楽をつれ逃亡するが、六本木倶楽部支配人水天宮寵児が仕向ける超人「ユーフォリア」たちから執拗に追跡される。そして雑賀も神楽と接触したことにより、被写体の魂を吹き飛ばす写殺能力に目覚めていた。
自由を求める神楽のため、そして普通に写真を撮影する事の出来なくなってしまった自身を元に戻すため、彼らの孤独な逃避行が始まったのだった。

 
【独断】…HENTAIしか出てこないアニメ
二次裏で評判だったアニメ作品を見ていこうツアーその8。『スピードグラファー』。
って…いきなりウソである。別にそんなに評判でもなかった。
ただ、『スピードグラファー』の放送に併せて、なぜかふたば☆ちゃんねる内に「スピードグラファー板」が開設されたため、ふたば全体で結構話題になったのだ。
製作サイドがふたばの管理人さんに話を持ちかけたのだろうが、ふたばにコンテンツ自体の広告を出すって…当時としては目の付け所がコア過ぎるだろう。逆に言うと、あの頃のふたばって、作り手の皆さんからしても一目置かれる存在だったのだろうか。
確かに、ネット全体にさり気なく色んなブームを広めていた掲示板でもあったし、もしかしたら「ふたばで評判になる」=「良作認定」という側面もあったのかもしれない…。
pixivもニコニコ動画もなかったあの頃、二次創作の祭りの現場といえば二次裏だった。上手いこと住人の支持を得られれば、省エネで広く根強い人気を得られる可能性もなくはない。(別にふたばのおかげでというわけではないが、『ローゼンメイデン』や『ギャラクシーエンジェル』、『くそみそテクニック』、『孤独のグルメ』なんかは、人気拡張の好例と言える。ちなみに悪い例は「あつし」や「ゴブリン」や「いまか屋」)
 
…しかしまぁ、「スピードグラファー板」と言われても…何をしていいのかわからない。
一番考えられるのは『スピードグラファー』本編の実況スレッドだ。というか、まともな使い道としてはそれしかないだろう。
とはいえ、掲示板丸々一つを一作品の実況にだけ使いきるというのも無理がある。木曜深夜27時付近だけ盛り上がって、あとは放置するというのも…。
結果、暇を持て余した一部のふたば住人が、「スピグラ板」を「二次元、三次元、エロもグロもネタも荒らしもなんでもありのカオス板」にしてしまった。考えられる限り最悪の使い方である。
そのくせ、なぜか本放送がとっくに終わっている今現在も「スピグラ板」は普通に存在したりする。それも相変わらずカオスなまま。
せめて実況で盛り上がれれば良かったのだが、物語中盤以降、実況スレッドに寄りついているのは、私も含めて数名のみであった…。

 
…はい。そんなリアルにハードコアな境遇に置かれてしまったテレビアニメ『スピードグラファー』。
上の記述だけ見ていると「結局人気出なかったんでしょ?」と思われるかもしれないが、…え〜…その通りです。結局人気は出ませんでした。
しかし! このアニメ、話の大筋や全体に漂う雰囲気はかなり良くて、最後まで見てみると意外に感動するのである。
最後まで実況スレッドを見ていた人達はみんな「案外良い作品だった」と言っている。私もまばらに見ていたのを最近DVDで全話補完したのだが、名作になりかけていた雰囲気は確かにあるのだ。

 
今どき珍しい、現代日本を舞台にしたハードボイルドアニメ作品。
主人公の雑賀辰巳は30過ぎの元戦場カメラマン。現在は日本でゴシップを漁るパパラッチ同然のフリーカメラマンをやっている。雑賀は日本の裏社会を追っていく内に、引き返す事の出来ない闇の深淵にまで足を踏み入れてしまう。
コテコテな設定ながら、第1話と第2話は作画がかなり頑張っていることもあって、凄く雰囲気が出ている。
カメラを持っていないと勃たない主人公。一癖二癖もあるサブキャラたち。うごめく社会の闇。都会を跳梁するなぞの変態超人。…物語の導入部からグオォッと惹き付けられる。
少なくとも、DVDの一巻(1話、2話収録)を見たら、間違いなく二巻以降も見たいと思わせるパワーはある。
  
 
ところが、第三話からいきなり作画ががた落ちする。人物、背景、小道具、全てがあからさまに省エネで描かれる。
まぁ、導入部は全力投球で、あとは時々力を入れるだけ…というのはGONZO制作に限らず、テレビアニメの宿命だろうとは思う。
…しかし、恐るべき事に、『スピードグラファー』は、全24話の間、ここから作画が持ち直すことは一度たりともなかったのである。これには流石に驚いた。
 
雰囲気重視のハードボイルド作品ゆえ、確かに作画がそこそこでも誤魔化せるといえば誤魔化せる。とはいえ、雰囲気で誤魔化し切れているのかもあやしいレベルの低空飛行を、最後まで続けてしまった。
そのせいで、超人同士のバトルシーンも、かなりマヌケというか、違和感のある描写が多い。
つい今し方まで余裕綽々だった敵が、突然棒立ちで雑賀の攻撃に当たってくれたり、カーチェイスで雑賀の乗っている車だけが異様に遅かったり、軍用ヘリの放つミサイルの爆発が妙にショボかったり…と、演出に矛盾が生じるレベルでひどかった。
一部、良作画時のバンクも使っているのだが、それが「ヒロインが変態オヤジにキスをしようとしているシーン」なので、全っ然有り難くない。超絶に気持ち悪く描き込まれたオッサンの顔のドアップが唯一の良作画って…一体どういうアニメなんだ。
 
案の定、ストーリーも中盤以降迷走気味で、「主人公達が行動の目標・目的を見失いながらもなんとなく話は進んでいく」という、GONZOのテレビアニメにありがちな“あの”悪癖が出てしまっている。
なんというか、総じて言って、2クールやり切るのに完全にバテてしまっている印象を受ける。ハーフマラソンで言えば、初めの2kmだけ全力疾走して、あとは歩く、みたいな感じだろうか。なおかつ、途中コンビニに寄ってトイレを借りるくらいの弛緩っぷり。
 
 
…いや、しかし、変な話だが、それでも私はこの『スピードグラファー』という作品が好きなのだ。
最後まで自分の生き方を貫く主人公の雑賀、想像を絶する復讐劇を企む敵のボス水天宮、そして二人の魅力に惹き付けられ戦っていくサブキャラクターたち。全ての人物が魅力的だ(それも活かし切れていなかったが…)。
中盤こそダラダラ展開だったが、水天宮の目的が明らかになるに連れて、終盤だけは一気に話も盛り上がる。
自らの歪んだ欲望がそのまま形(能力)となった変態超人「ユーフォリア」たちも、良い味を出している。多分スタッフが描いていて一番面白かったのってこの変態たちだろう。
作画と脚本が良かったら、もっともっと緊張感と迫力に満ちた作品になっていたと思う…。
 
真面目な話、この作品、HENTAIしか出てこないし、グロもやや多いので、誰にでもオススメできるものではない。アニメとしてのデキも上記の通りだ。
このご時世にも関わらず、出てくるヒロインも三人だけ。そのヒロインも「嗜虐心を煽る美少女」「主人公を逆レイプする女刑事」「色ボケ年増園」の三択だ。地獄のようなアニメである。
ただ、「ボクはHENTAIが好きだよ!」という方は必見である。自分がユーフォリアになったらどんな能力が発動するのか考えてみるのも面白いかも知れない。
また、「格好いい男の生き様」が見たい人にもオススメだ。雑賀も水天宮も自らの信念を貫いていく。『スピグラ』全話を見た人は、敵である水天宮に惚れる事は必至である。

↑コレ聴いて俄然ドラマCDが欲しくなった。本編見た人じゃないと何の話か分かりません。
 
なんか、あまりにも色々なことが惜しかったテレビアニメ『スピードグラファー』。
楽しむには視聴者の脳内補完やタフな嗜好が必要になるが、「嗚呼、こういう作品もいいな」と思わせてくれる一品だ。
興味を持たれた方は、是非。
 
おわり