ローゼンメイデン


【ネタ】…アニメ ローゼンメイデン(2004) 制作:ノーマッド 監督:松尾衡 原作:PEACH-PIT
 
【説明】…「アンティークドールの戦い」をコンセプトにしたテレビアニメ作品
引きこもりの中学生の少年・桜田ジュン。鬱屈した性格の彼は、ネット通販で購入とクーリングオフを繰り返してスリルを味わう日々を送っていた。
そんなある日、彼は怪しげなダイレクトメールを受け取り、そこに書かれた「まきますか まきませんか」との問いに、軽い気持ちで応えてしまう。すると薔薇の装飾金具の付いた重厚な革製の鞄が忽然と彼の部屋に現れる。
鞄を開けると、中にはまるで生きているかのように精巧に作られたアンティークドール(少女人形)が収まっていた。興味半分にジュンが螺子を巻くと、人形は目覚め、「ローゼンメイデン第5ドール“真紅”」と名乗り、ジュンに対して、自分と契約して家来となる事を要求する。
真紅の尊大な態度に反発したジュンだったが、突如窓ガラスを割って侵入してきた人形に命を狙われ、訳も分からぬうちに真紅と止む無く契約を交わしてしまう。
真紅に関わる事により争いに巻き込まれてしまったジュンは、様々なドール達やその関係者達と出会っていくことになる。

 
【独断】…せっかくだから俺はこの赤のドールを選ぶぜ!
二次裏で評判だったアニメ作品を見ていこうツアーその11。『ローゼンメイデン』。
ツアーその10が2010年3月に書いた『サザエさん』のエントリーだったので、1年4ヶ月ぶりに続きを書いたことになる。ツアー的にはその間ずっとエンドレスでサザエさんを見続けていたということか。…地獄だな。
 
ギャラクシーエンジェル』に次いで二次裏と切っても切り離せないアニメ、それが本作『ローゼンメイデン』だ。
アニメ本編自体が大好評だったことはもちろん、各キャラクターもそれぞれに人気を博し、二次裏内でも二次創作・三次創作が数多く作られることとなった。
「だわわだわわ」と歌う真紅、苺パスタを轟然とすする雛苺、なぜか営業マンになっている翠星石、ただのイジメられっこ水銀燈、変質者扱いのジュン…各キャラクターが“二次裏キャラ”として定着し、多くの派生ネタを生み、としあきたちに愛された。
 
たしかに『ローゼンメイデン』はキャラクターがもの凄く立っていて、ヴィジュアルインパクトも強い。ドレッシーな人形たちが喋って戦うという設定自体もかなり奇抜だ。良くも悪くもネタになりやすい作品ではある。
しかし、これが改めて見てみると、1話1話の脚本、細かな演出、主人公のジュンが徐々に生きる力を手に入れていく物語の構成まで、本当に全てに渡って非常に良くできた傑作なのである。
 
主人公の桜田ジュンは中学2年生。
ジュンはとある事が切っ掛けで心に傷を負い、学校に通えなくなってしまい、自宅から出ることもほとんどなく、自室にこもってネット通販で怪しげなオカルトグッズを注文する日々を送っていた。
そんなある日、彼は妙なダイレクトメールを受け取り、そこに書かれた「まきますか まきませんか」との問いに軽い気持ちで応えてしまう。すると薔薇の装飾金具の付いた重厚な革製の鞄が自室に忽然と現れる。
鞄を開けると、中にはまるで生きているかのように精巧に作られたアンティークドール(少女人形)が収まっていた。興味半分にジュンが螺子を巻くと、人形は目覚め、自ら「ローゼンメイデン第5ドール“真紅”」と名乗り、ジュンに対して、自分と契約して家来になる事を要求する。
ジュンは真紅と契約をすることで、「アリスゲーム」と呼ばれる魔力を持った人形同士の戦いに巻き込まれていく。

激しい戦いにより桜田家の窓ガラスはよく割れる
 
真紅たちローゼンメイデンの戦いを通じてジュンが成長していく姿が描かれるわけだが、おそらく、真っ当な感性の持ち主が見たら、初期のジュンに対して良い印象は全く抱かないだろう。
やるべき事は何もせず、自室にこもってクーリングオフを前提にオカルトグッズを注文する毎日。優しく手を差し伸べる姉(のり)のことは邪険にする。で、自暴自棄になっているくせにいざというときは臆病風を吹かす…
客観的な事実だけ見ればジュンは最低である。世の中にはへたれ萌えというものもあるらしいが、それにしてもへたれ過ぎてて良い所が全くない。
ただ、これがジュンに感情移入できるとまた少し違って見えてくる。彼は心に傷を負っていて、これでも本人なりにギリギリのところで踏ん張っているのである。
中学時代の私もジュンに近いところがあって、毎日ちゃんと学校に行っている人達が眩しく見えて仕方がなかった。本作はそういう「当たり前」ができない苦しみを丁寧に表現している。
ジュンは非常に繊細で、ちょっとした事でトラウマが掘り返され、何かあると身動きが取れなくなるほど凹んでしまう。そうなってしまうこと自体がダメだと思っていても、自分自身ではどうにもならない。
しかし、荒廃しきったかのような彼の心の奥底には、優しさや高潔さが美しく健気に残されている。ジュンはドール達との出会いを切っ掛けに、自分に残されたその美しい心の芽を少しずつ育み、生きる強さを身につけていく。
 
いいなぁと思うのが、ジュンを導いていく真紅が、過干渉ではないところだ。
真紅はいつもエレガントで気位が高く、ジュンが間違った行いをした時にスパッと教育するだけ*1。ジュンはあくまで真紅の家来であり、家来としてふさわしい振る舞いを求められる。
ジュンも当然反抗は試みるが、聡明な上に魔力も使える真紅にはとても太刀打ちできない。この初めから勝負の決まっている主従のじゃれ合いが見ていて微笑ましい*2
そんなこんなしながらも、真紅はジュンの心の傷に気付いた上で、彼を正しい方向に導いていく。

 
アニメ第一期に当たる本作*3には、真紅、水銀燈雛苺翠星石蒼星石の、5体のローゼンメイデンが登場する。
実質的に「敵キャラ」に当たるのはその中で水銀燈というドールだけだ。二次創作でよく水銀燈がいじめられっ子的な扱いをされるのはそのためで*4、真紅たちその他のドールは紆余曲折ありながらも仲良くやっている。
本来、ローゼンメイデンの宿命として、全てのドールは互いの命に相当するローザミスティカを奪い合う戦い━「アリスゲーム」をしなければならないのだが、ある意味これを大真面目にやっているのは水銀燈だけとも言える。他の姉妹は桜田家でテレビ人形劇『くんくん探偵』にうつつを抜かすぬるい日々を送っている。
冷酷で孤高、そして一途に健気に“アリス”を目指す水銀燈は、人気も高く、コアなファンを数多く抱える。主にMっ気のあるファンが多い。
雛苺は見た目も心も幼い末の妹。ジュンに次いで真紅の家来その2。甘党。
翠星石は見た目こそ淑やかで美しいが、喋らせるとワガママで口が悪い。しかし心根は優しい女の子。
蒼星石は我の強い姉妹たちの中にあって比較的冷静沈着で空気を取り持つ男の子。翠星石とは双子のドールに当たる。
ゴシック調の服装をした喋る人形達が現代日本の一軒家の中でわいわいやるわけで、その光景はなかなかシュールで面白い。それぞれのドールも個性が強く、会話を聞いているだけでも胸焼けを起こしそうな勢い。

左から、蒼星石翠星石雛苺、真紅、くんくん
 
物語は、ジュンが自分の心の傷と向かい合って葛藤したり、真紅が他の姉妹の問題を解決したり、みんなでストーカー・水銀燈を返り討ちにしたりして進んでいく。具体的なことはネタバレになってしまうので本編をご覧になって頂きたい。基本的にはアリスゲーム至上主義の水銀燈と戦っていくのが軸になる。
このアニメ、決して作画がハイクオリティというわけではないのだが、背景や小物は丁寧に描かれていて、1クール作品でありながらキャラクターの所作やデフォルメもいい塩梅にこなれている。限られた予算・期間・スタッフの中でもの凄く練り上げられたつくりをしている。
声優さんの演技も本当に見事なまでのハマりっぷりで、特に真紅役の沢城みゆきさんの涼やかながら艶のある声は、本当に聞いていていいなぁと思った。真紅の上品な立ち振る舞いに沢城さんの声がビシっと筋を入れてくれている感じ。 
結末の好き嫌いはあるだろうが、総じて非常に素晴らしい作品だと思う。

↑クリックして味のあるてきとー作画をチェック! 階段上のジュンと雛苺に注目!
 
そんなわけで、未見の方には是非とも本作をご覧になっていただきたい。…のだが、一つお願いがある。
…これから視聴しようとされる方…そう、貴方だ。どうか真紅のファンになってはくれないだろうか。
私は本作に出てくるローゼンメイデンの中で真紅が一番大好きなのだが、「真紅はあまり人気がない」というような噂をよく耳にする。それ故に、ネット上ではなんか非常に不名誉なあだ名まで付けられていて、一ファンとしては憤りを禁じ得ない。
翠星石ツンデレキャラとして非常に人気があり、また水銀燈もHENTAIたちからの支持が厚いらしく、本来は人気No.1でなければならない主役格の真紅が、相対的に影が薄くなってしまっているようなのだ。
そもそも、相対的にも何も、どこをどう取っても真紅の魅力は究極絶対ではないだろうか。
智性と美貌を兼ね備え、振る舞いの全てに気品があり、おまけに実は優しいときている。しかも紅い。紅は主役の色だろう。実際主役だ!
なぜここまでパーフェクトなドールが人気投票で辛酸を嘗めなければならないのか。
「ヒャッハー! ローゼンメイデン第5ドール真紅様のお通りだわぁ! そこの水銀燈! 種もみをよこせぇ!」とか、
「ジャンクは焼却だわぁ! 喰らえぃ水銀燈!」とか、
水銀燈…貴様の羽もすべて私の肉厚に吸収されてしまうというわけだわ!」とか、
そんなようなことは一切していないだろう。聡明で美しく心の広い真紅がなぜ水銀燈ごときに後れを取らなければならないのか…。万歩譲って翠星石に負けるのはまだ解るが(解っちゃうんだ)、こればかりは納得がいかない。
安易なキャラ萌えやふしだらなマゾヒズムに傾倒せず、真摯に作品を視聴すれば、真紅が最も魅力的であることはご理解いだだけると思う。

 
アニメ『ローゼンメイデン』。
ヴィジュアルイメージから逆に倦厭してしまう人もいるかもしれないが、真面目に良い作品です。
全12話に綺麗にきっちりと内容が詰め込まれています。
是非。
 
おわり

ローゼンメイデン DVD-BOX

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*1:冷たいことを言い放って放置することもある

*2:ジュンにとっては完全に不本意だろうが

*3:当初、続編の予定はなかったが、大好評を受けて二期、OVAと続編が製作された

*4:他にもシリアスな理由があるけどネタバレになるので避けます