としあき


【ネタ】…Web ふたば☆ちゃんねる(2001-) としあき
 
【説明】…画像掲示ふたば☆ちゃんねるに現れた荒らしのハンドルネーム、およびそこから派生したデフォルトネーム
二次元裏掲示板の成立当初(2002年)のデフォルトネームは「名無しさん」であったが、2003年に「としあき」と名乗る人物が「回転ソムリエ 15回転」等の同人誌のアップロードを要求するなど、執拗な荒らしを繰り返し猛威を振るった折、匿名掲示板であることから他の二次裏住民も便乗して「としあき」名のハンドルを使用し、荒らしに便乗したり大本の「としあき」をからかったりするようになり、一時は手のつけようがないほどにまで「としあき」が増殖し、紛糾する事態が発生した。
その流れを受けたふたば☆ちゃんねる管理人の茶目っ気によって、二次元裏掲示板のデフォルトネームとして「としあき」が採用された。これにより、「二次元裏掲示板の住人 = としあき」という図式が成立した。またこの流れで、掲示板に投稿して新規のスレッドを立てた人物を"スレあき"、女性の投稿者を"女子あき"などと呼称する者が誰ともなく現れ、程なく全体に定着するようになった。

 
【独断】…E&Eの伝道師
パソコン通信やインターネットでは、稀に、奇跡としか言いようがないコミュニティや文化が発生する事がある。
ニコニコ動画2ちゃんねるあめぞうあやしいわーるどときめきメモリアル特別会議室…そして、今回触れさせていただく画像掲示ふたば☆ちゃんねる(以下:ふたば)の二次元裏板(以下:二次裏)もその一つである。
 
二次裏は、コンビューターゲーム、アニメ、漫画などの画像を貼り付けて、その画像をテーマにみんなでレスを付けるという、有り体に言えばオタク向けの画像掲示板である。
「なんでー、ただのオタクの寄合所かよ」と思う事なかれ。
ただのオタクの寄合所ではない。本当にどうしようもないオタクの寄合所である(今はそうでもないか)。2010年現在では、オタク系の画像掲示板としては最も活発なものの一つになっている。
 
 
エントリータイトルの「としあき」とは二次裏でのデフォルトネームである。二次裏で書き込みをするときに名前欄に何も書かなかった場合、なぜか「としあき」という名が自動的に付けられる。
元々の二次裏デフォルトネームは「名無しさん」だったのだが、ある日を境に、この非常にありがちで妙にリアルな日本男児名に変更された。
 
切っ掛けとなったのは同名の固定ハンドルネームの荒らしである。ある日「としあき」と名乗るその荒らしが二次裏に現れ、エロ同人誌のアップロードを住人たちに執拗に迫ったのだ。
荒らしは華麗にスルー…と行きたいところだが、当時の二次裏はサーバー一つ、レス・スレ連投制限なしである。つまり、一人でも荒らしが来るとほぼ完全に板そのものが占拠されてしまう仕様だったのだ。
ふたばの管理人さんはいつも気紛れに仕事をする人なので、この件の対応もいつになるのか分からない。住人としてもじーっと待っているのもヒマである。
そこで、二次裏住人たちはその事態に悪ふざけで便乗。みんなで「としあき」と名乗り出し、本物のとしあきをからかったり、なりすまして関係ないエロ同人誌のアップロードを依頼したりと、めちゃくちゃなことをやり出した。…かく言う私もその時の便乗としあきの一人である。
管理人さんは管理人さんで、ようやく仕事をしたかと思ったら、デフォルト名自体を「としあき」に変えてしまうというワケの分からない悪ふざけをして去っていった。
…紆余曲折あり、二次裏は名前欄そのものが無くなったりもしたが、現在もまだ「としあき」というデフォルトネームを使用し続けている。
 
名前の由来からしてお馬鹿さんだが、二次裏、そして二次裏住人としあきたちの性向を知っていただく上で、欠かせないエピソードだと思う。
  
 
二次裏は開設してから、望むと望まざるとに関わらず、数多くのネタ、スラング、価値観、ブームを生み出してきた。今やカタギ(非オタク)の人でも、二次裏発祥のスラングを無意識に使っていたりもする。
プロ・セミプロの漫画家やクリエイターたちがこそこそと出入りをし、無職のナイスミドルたちが1日中常駐し、就職活動中の大学生たちが魂の休息に来る。ただの画像掲示板であるはずの二次裏は、何故にこうも人を惹き付けたのだろうか。
 
誤解を恐れずに言えば、その魅力の元は、としあきたちの良識と、管理人の絶妙とも言える手心にあった。
 
ふたばは元々2ちゃんねるの避難所の一つでもあったのだが、住人たちの気質は2ちゃんのそれと微妙に異なる。
まず、純然たる悪口があまり好まれない。
今でこそ大分薄まった感があるが、ふたば開設当時の2ちゃんはまだまだアンダーグラウンド臭が強く、基本的に何事も悪口が多かった。漫画、ゲーム、アニメの話をするときも裏話的な内容が多く、作品に対する感想・論評も非常にシビアであった。
二次裏の場合、基本的に二次元が好きであるというスタンスの下に二次元作品が語られることが多い。シビアな意見も当然あるが、作品が如何に面白かったかが話題の中心に据えられる傾向にあり、その上で「ここがダメだった」「あそこをこうして欲しかった」という意見が付随する、意外と真っ当な会話の場になっていたのである。
ダメな作品が話題に挙がるときも、ただ悪口を言うのではなく、大喜利的にネタを挟むのが通例となっていた。ダメ作品といえど、キャプチャー画像がスレッドの頭に貼り付けてあって、面白コメントが横に添えられていると愛嬌・愛着が感じられるものである。
物事を如何にして楽しむか…というのが美徳として明確に存在していたのだ。 
 
物事をできるだけ楽しむという姿勢は、としあき同士のコミュニケーションも同様である。
としあきは常に優れたネタや面白いコラを提供しようとするし、また、オモシロを提供できた人間への賞賛を惜しまない。そうすることで、多くのネタ職人・コラ職人が訪れ、生まれ、育っていった。
バカgif画像の制作で才能を無駄遣いするとしあきもいれば、プロの漫画家やアニメーターのとしあきも数多くいた。商業漫画やテレビアニメで二次裏ネタがさり気なく入っている作品も散見された。
ネタや作品へのリスペクトがあると、発信する側も居着きやすいわけである。
 
 
また、なぜか二次裏ではステレオタイプなオタク口調、2ちゃん発祥のネットスラングなどを倦厭する風潮があった。
「〜でする」「〜ますぞ」「〜しる」「(笑)」「(爆)」などの妙な語尾や記号などは使わない。ふたば開設当時にまだ健在だった「藁」や「香具師」などの誤変換ネタも使わない。「w」も付けない。
もちろん、初期の二次裏住人は私も含めて2ちゃんからの流入者も多かったわけで、所謂2ちゃん用語もチラホラ見掛けはした。…が、ほどなくして積極的にそういった言葉を使う者はいなくなった。
別に何か暗黙のルールがあったわけでもないのだが、二次裏は割合“素”の口調でのやり取りが多く、二次裏独自のスラングやなりきりスレッド以外のそういった言葉は、「わざとらしい」とか「薄ら寒い」と捉える風潮があったのである。
 
ある意味独善的な美学だけれど、結果的にこれが二次裏独特の良い空気をつくっていた。
例えば…今や語尾に「w」を付けることにイヤなイメージを持っている人はそういないだろうが、一昔前は「w」って嗤笑を意味する嫌いが強かったのである。あるいは、ネットゲーム中毒者が必要性もなく言葉の端々に付けるバカっぽい印象があったのだ。
としあきたちはその辺のイメージに妙に敏感で、場の空気を悪くする可能性があると思えば、そういったものは自然と使わなくなる。変な倫理観があるのである。
そのくせ、スレッドやレスの内容は悪ふざけのモノばかり。
この「真面目にふざける」姿勢こそが二次裏を大いに発展させてきた要因であると言える。としあきたちは基本バカなんだけど、どこか“粋”な気質があった。
  
 
こうした独自の文化が生まれた背景には、上記オリジナルとしあきのエピソードにもあるように、まず掲示板そのものの仕様が微妙に不自由だった点が挙げられる。
サーバーは一つのみ、立てられるスレッドは50に満たない。多少大きな事件が起きたり、流行りモノが生またりすると、板全体がお祭り状態になってしまう。
そんな狭っ苦しい環境だからこそ、みんなでできるだけ良い場をつくろうとするし、多少荒れたところでそれ自体を楽しもうとするマインドが自然に生まれてくる。それこそ、かつては二次裏のサーバーダウンを恒例ネタにして盛り上がっていたこともある。
また、2ちゃんの煽り文化がイヤでふたばに流れてきた人も少なからずいたので、無闇な煽りを否定する空気が自然と生まれていた。
 
ふたばの管理人さんの仕事っぷりも、なんと言うか…非常に…外連とでも言うのか、洒落が利いている。
そもそも、自分の掲示板に来た荒らしの名前をデフォルトネームにするだろうか。イカレている。
管理そのものもしたりしなかったりだし、住人から意見を求めることも一切ない。そして突発的に仕様変更を試みたり、ワケのわからない板を増設したりする。
としあきとしては振り回される一方だが、それも含めてのふたば☆ちゃんねる二次元裏板なのである。
  
 
様々なネガティブ要素が奇跡的に絡み合って独自の文化を形成した二次裏
そんな二次裏だからこそ、黎明期に居たとしあきたちは自らが「としあきである」というアイデンティティを明確に持っている。
 
人が増えすぎ、サーバーが増設され、板が分離してしまった現在の二次裏は、残念ながらかつての二次裏とは雰囲気が大分変わってしまっている。
相変わらず優れたネタは数多く生み出されているが、板全体で盛り上がるようなことは滅多になくなってしまった。
しかし、それもまた自然な流れである。サブカルの一番美味しい時期というのは、その期間が非常に限られているものだ。そして、そういった代謝を経て、また新しいモノが生まれてくるのだろう。
 
二次裏から離れていってしまったとしあきたちも多い。
だが、彼らのE&E(エンジョイ&エキサイティング)の魂が無くなってしまったわけではない。
ネット界隈で、あるいは現実社会で、としあき二次裏で培ってきた“何か”を発揮することがあったのなら、それは非常に喜ばしい事だと勝手に思う。
 
…もし、あなたの周りにとしあきがいたのなら、そいつは間違いなく天の邪鬼の困り者だ。
ただ、ちょっと魅力的な困り者であってくれたら嬉しい。
 
おわり
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