GAD GUARD(ガドガード)
【出典】…アニメ フジテレビ GAD GUARD(2003) 原作:いづなよしつね、GONZO、錦織博 制作:ゴンゾ・ディジメーション
【説明】…2003年4月から9月までフジテレビで放送されたゴンゾ・ディジメーション制作のロボットアニメ
今から数百年後の地球。ユニットブルーと呼ばれる未来の街。そこには夜になると電力を失い暗闇に包まれるナイトタウンと呼ばれる街があった。
そこに住む少年・真田ハジキは学校に通いながら、八須賀運送で運び屋のバイトをして日々を暮らしていた。ある日、ハジキはひょんな事から高値で取引されている謎の物質“GAD”に接触する。すると“GAD”は周りのスクラップを巻き込み、巨大な人型メカ”鉄鋼人ライトニング”へと姿を変えた。その時から、ハジキの周りに鉄鋼人を持つ人が現れて、ハジキは鉄鋼人が起こす事件や戦いに巻き込まれていく。
【独断】…父をどうしたいのか、それが問題だ
「二次裏(画像掲示板)で評判だったアニメ作品を見ていこうツアー」の一貫として、昨年末、本作をレンタルで鑑賞した。
ネットに居着いていると、漫画でもアニメでも、作品の周辺情報や風評が意図せず大量に入ってきてしまうところがある。あと、「この作品のエロ同人誌はよく見るんだけど、実は原作は全く見たことがない」なんてこともよくある。例えば、私の中で『機動戦士ガンダムSEED』(2002-2003)のキャラクターたちは、ゲイと欲求不満の年増女しかいないことになっている。
…ともかく、私は二次裏におけるアニメ作品の評判はわりと信用しているのだ。二次裏住人の評価というのは、賛否どちらの意見にもユーモアと人情味を感じる事が多い。一般論で固められた“真っ当”なレビューよりも視聴意欲をそそられる。
『ガドガード』が放送されていた当時、そのメインヒロインである篠塚アラシは、二次裏でよくコラ素材にされていた。熱々おでんを食べさせられるアラシ、趙雲をぶん殴るアラシ、陛下の愛人になっているアラシ、パンツの有無を検証されるアラシ…二次裏住人たちにアラシは実に愛されていた。
主人公ハジキの評判も良く、「あいつ(ハジキ)にならアラシを任せられる!」等の勝手な賛辞をよく見掛けたものである。
…というわけで、非常に今更ではあるものの、『ガドガード』を見てみたわけだ。
漠然とした結論から言うと、『ガドガード』は面白かった。
ただ、何がどう面白いのかを、非常に説明しづらい作品だった。
上記「説明」の項にあらすじ(ウィキペディアのコピペ)が書いてあるが、それを参考にして「ロボットバトルがメインの作品なんじゃないのか?」と訊かれると、それは違うのである。確かにロボットに纏わる事件が話のほとんどを占めるし、ロボット同士でよく戦いもするのだが、別にそれが主題というわけではない。次から次へと強敵が現れて…みたいな事はないし、敵を倒したから「ホイ解決」…なんて事もない。
少年・少女たちがある日突然「鉄鋼人(てっこうど)」という半自律ロボットを手に入れて、それぞれがそれぞれの目的でその鉄鋼人を使役する。兵器として使う者、自警のために使う者、友達として付き合う者、どう接していいのか分からぬ者、全員がその力と存在に戸惑いながら、様々な事件に巻き込まれ、また自ら事件を巻き起こしていく。
「じゃあ、ロボットを介した青春群像劇なのか?」と言われると、まぁ確かにその通りではあるんだが、物語の途中からそれだけでもなくなってくる。
オカルトかつ観念的な要素が入り出し、主人公とメインヒロインが、突然、理由無き旅に出てしまうのだ。終いには、主人公が明確な目的もなく「宇宙に行く」とか言い出したりする。地上へ帰る術がないのに、だ。いや、風船おじさん並にワケが分からないチャレンジだろう。
『ガドガード』のストーリーは、大きく分けて3つのパートで構成される。
① 前編は、主人公・ハジキたちと鉄鋼人との出会い、そして彼らのナイトタウンでの活躍
② 中編は、GADに纏わる事件と、鉄鋼人の使い方を巡る主要人物たちの葛藤
③ 後編は、その葛藤のそれぞれの自己解決
↑こんなように書くと、結構綺麗に構成されているようにも見えるが、それぞれのパートで作中の雰囲気が大きく変わるので、おそらくかなりの割合の視聴者が本編を見ていて戸惑ったと思う。
①では、主人公ハジキが鉄鋼人ライトニングとともに街を駆け回り、強盗事件を解決したり、GADによって生まれた怪物を退治したりと、かなり疾走感溢れる内容になっている。
舞台であるナイトタウンも、小汚く退廃的ではあるが、そこで懸命に生きる人々の姿が描かれ、総じていい雰囲気を醸し出している。ライトニングが街を跳び回る感じが、アメコミのヒーローモノっぽくて爽快である。
②では、鉄鋼人使いたちの交流が本格的に描かれる。
それまで社会的には無力だった少年・少女たちが、鉄鋼人という大きな力を手に入れ、それを以て「何をすべきか」を考え、協力していく。この辺、アトラスの『ペルソナ』シリーズ(1996-)や、上遠野浩平先生の『ブギーポップ』シリーズ(1998-)を彷彿とさせるワクワク感がある。
ただ、それと同時に「漠然と鉄鋼人の力を使っていていいのか?」という自己疑念も生まれ始める。①での爽快感はなくなり、主要人物たちがそれぞれの人生を立ち返り、悩み始める。
GADに纏わる事件も頻発し、その謎が深まっていく。
③では、鉄鋼人使い・カタナとの勝負に敗れたハジキが街を出ることを決意し、死んだ父親の足跡を辿る旅に出る。
文面にしてみてもかなり唐突な話だが、実際の本編においても本当に唐突にそうなってしまうのだ。そもそも、カタナと戦う理由も明確には存在しないし、街を出てどうするのかもハジキは決めていない。ある意味、成り行きで父親の後を追うのである。
そして、いつの間にかロケットを掘り出して宇宙に行く話になる。宇宙を目指した結果死んでしまった父親、その先に何があるのかをハジキは確かめに行く。
…『ガドガード』は2クール、全26話あるが、これら①〜③を一つの流れとして見てみると、かなり混乱する。
痛快ロボットアクションアニメかと思いきや、悩み多き青春群像劇になり、最終的には自己発見にて完結する…。
序盤のテンションに引っ張られた視聴者は、途中からイヤになってしまった可能性は高い。
私はGONZO制作のアニメは片手で数えられるほどしか見ていないのだが、『フルメタル・パニック!』(2002)にしても、『ぼくらの』(2007)にしても、なぜか中盤以降でガクンとテンションが落ちる。
原作がそういう話だから、というのもあるのかも知れないが、物語の“谷”の期間が妙に長くダラダラしてしまう印象がある。それならば、最後だけは綺麗にまとまっているのかというと、案外そうでもなかったりする。一応クライマックスでの盛り上がりはあるので、竜頭蛇尾というわけでもないのだが…。
『ガドガード』も総じて言えば、間違いなく面白いのだ。ただ、①〜③のどの部分をつかまえて「面白い」と言うのかは、人によって全く違うだろうと思う。①〜③の全てを、一つの繋がりとして面白いと思えるのは、良くも悪くも、この作品に対して超好意的な人に限定されるだろう。
以前にも書いたが、私はゲラなので、①〜③まで全てを面白く見ることができてしまった…。
だが、最終的に物語が各自の自己発見に収束するとしても、もっともっと痛快な見せ方があったのではないかと思う。真面目な人がこの作品を見てしまったら、「一体このアニメは何がしたいのかわからない」と感じることは必至である。
…結果的に『ガドガード』の地上波放送は、20話打ち切りという形で幕を閉じることとなった(これはフジテレビの放送方針自体に問題があるとも言われている)。やはり、途中からの気怠い雰囲気が不評だったのかも知れない。
というか、ぶっちゃけ、みんな①の延長線上の話が見たかったんだろうな。
二次裏では、本作のテンションが途中で落ちようがなんだろうが、そのまま最後まで付いていくファンが多かった。流石である。
アンダーレス水着を着るアラシ、ジャギ様をぶん殴るアラシ、「ハローワークに行け」と言ってくるアラシ、ゲームセンターアラシ…って、アラシで遊んでいただけのような気もするが…。
いや、でも、本当に、打ち切りが決まったときはみんな残念がっていた。2ちゃんと比べて少し違うのが、フジテレビに対する怨嗟がそれほどでもなかったというところか。「嗚呼、まぁ、仕方ないかな…」的な雰囲気だった。物わかりが良すぎる。
レンタルDVDでは当然全話見ることができるので、地上波で結末を見逃したファンは、改めて最後まで見て欲しいと思う。
終盤の展開は、地上波放送分以上に混乱すること請け合いの内容になっている。…ビビるなよ。
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