センチメンタルグラフティの主人公(とその親父)


【出典】…ゲーム NECインターチャネル センチメンタルグラフティ(1998)

【説明】…恋愛シミュレーションゲームセンチメンタルグラフティ』の主人公
小学4年〜中学卒業までの間、「父親の仕事の都合」で12回に渡り転校を繰り返すという、謎の多い少年。母親はおらず、父子家庭で育ったと思われる。
ゲーム本編ではヒロイン達に12股を掛けるために、全国をアルバイトしながら駆けめぐるというバイタリティに溢れた行動に出る。
続編『センチメンタルグラフティ2』の冒頭で、交通事故のために死亡する。
ゲーム上のデフォルト名は「田中一郎」。

【独断】…隠された父と子の物語
本作の主人公は、小学1年生〜4年生までの間、青森のヒロインの家に居候をしていたのだが、その後、中学卒業までに、仙台→札幌→大阪→京都→名古屋→広島→長崎→金沢→横浜→高松→福岡→?と、12回に及ぶ転校を繰り返している。そして、おおよそ半年足らずの各滞在期間の間に、ご当地美少女を軒並み自分に惚れさせていくのである。
当時、セングラファンの間でも話題になったが、あまりにも謎の多い少年である。もはや「ミステリアス」を超えて「何者だお前は!?」という感じなのだ。
各ヒロインとの細かいエピソードは小説に書かれているのだが、ヒロイン側に近い三人称視点で物語が進行していくので、この主人公が何を考えているのか具体的にはほとんど分からない。どこからともなく現れて、子供離れした落ち着いた行動を取る不思議な少年なのだ。分かっていることは、「どうやらルックスはイイらしい」ということと「優しくて素直な性格である」という二点だけである。
そもそも、12回も転校を余儀なくされる親父の仕事とは一体なんなのか。
ここまで移動があるということは、「親父でないと出来ない仕事」なのであろう。とはいえ、一般的な事務職であれば成果を期待するのに各地半年という滞在期間はあまりにも短すぎるし、回数も多すぎる。ならば写真家や芸術家の類か…?そのわりには、行く場所はどこも地方都市、住んでまでモチーフにするようなところではないし、逆に腰を据えるにしてはやはり短すぎる。さらに言えば、主人公をどこかへ預けて単身赴任するということも一切していない。
つまり、消去法で行くとどうにも堅気の仕事ではないっぽいのである。
そんなことから、当時ファンの間では、主人公の親父は「殺し屋」であると予想されていた。私もいまだにそう思っている。というか、主人公も親父の仕事を手伝っていた可能性が高い。もしかしたら本当の親子ですらないのかも知れない。

ふざけた話に聞こえるかも知れないが、それだと全ての辻褄が合うのである。
各地のシマでターゲット達の素行をチェックしたのち、“掃除”をして、足を残さずに去っていく殺し屋の親父。主人公は以前自分が殺したターゲットの子供である。殺害現場を見られたが、口封じすることが出来ずに、なし崩し的に主人公を攫ってしまう親父。ショックで記憶を無くした主人公。気が付くと目の前にいた唯一大人である殺し屋を「お父さん」だと思い込んでしまう。
成長していく過程で、親父の仕事を理解し始める主人公。親父も本意とは別に、“闇”で生き抜くための術を主人公に教えていく。
堅気になることができない親父は殺しの仕事を続けていく。そして主人公も進んでそれに付き従うのであった…。
どうだろうか? 大体スジは通っているだろう。異様な転校回数も、主人公の妙な達観も、これならば説明が付く。青森に数年居たあたりは、主人公を攫ってしまい、堅気として生きようか葛藤している親父の姿が窺える。
本編に当たるゲームでは、主人公は高校3年生になっている。が、そこに親父の姿はない。主人公はなぜか東京の自宅に一人暮らしなのである。
…そう、ついに親父は殺されたのだ(予想)。組織に(なんの?)。

主人公は全国のヒロインたちから手紙が届いたのを見て、彼女たちとの再会を決意する。「今まですまなかった。これからは幸せに生きてくれ」という親父の最期の言葉を胸に、普通の高校生としての青春を謳歌しようと、必死に“生き”始めるのである(妄想)。
こうして、ようやくゲームが始まるわけだ。
主人公がゲーム上で12股を掛けていたのは悪気があったわけではないのである。闇の世界で生きてきた主人公にとって、青春の日射しを垣間見せてくれた彼女たちとの関係を一つも無駄にしたくなかっただけなのである。
そうこうして、12人同時攻略を成し遂げた主人公だが、続編の『センチメンタルグラフティ2』の冒頭にて、“交通事故”で死んでしまうという驚愕の最期を迎える。
果たして、これは本当に交通事故だったのだろうか? 組織と深く関わりすぎた主人公も、やはり堅気として生きることが許されなかったのではないか?
悲劇の運命に彩られた本作の主人公であったが、最期の一年だけは自身の青春を謳歌したのだ。そして、ヒロイン達の心の中で、彼は静かに生き続けるのである。
…『センチメンタルグラフティ』は、その名のとおり、ひどく切ない物語なのだ。一人の少年の生き様が胸を打つ。そんなゲームなのである。
この項を見て興味を持たれた方は、騙されたと思って、是非一度プレイしていただきたいと思う。

【追記】…偽装死亡疑惑
ファンの間では「組織の手から逃れるために死亡事故を装った」という説も流れている。
また、「12股掛けたのが収拾付かなくなって死んだことにした」という説もある。うーん、どちらも本当っぽい。
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