K-1 WORLD MAX 2008


【出典】…テレビ 格闘技 K-1 WORLD MAX 2008 FINAL(2008.10.1)
 
【説明】…立ち技格闘技イベント「K-1 MAX」の2008年度王座決定トーナメント
魔裟斗(29=シルバーウルフ)が決勝でアルトゥール・キシェンコ(21=ウクライナ)を延長判定3−0で下し、5年ぶり2度目の世界王座に輝いた。準決勝の佐藤嘉洋(27=フルキャスト)戦、決勝と、ともにダウンを喫したが、辛くも勝利を手にすることとなった。
 
【独断】…試合自体は凄かった!…が、これは黒!
格闘技もとんと見る事がなかったんだが、今回は久々に熱中して視聴した。
イケメン達が鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒し、殴り合い、抱き合う(クリンチ)。飛び散る汗、必死の形相。思わずマダム口調で「その子の裸を見せてちょうだい!」と叫びたくなってしまう。
まぁ、冗談はさておき、結局準決勝から決勝までの3試合しか見られなかった。以下感想と考察。
 
−準決勝第1試合−
○ 魔裟斗 vs 佐藤嘉洋 ×
長身(184cm)の佐藤は、遠い間合いでのローキックを主体に、近づかれたときにはテンカオを駆使。対する魔裟斗は佐藤の懐に入ってからのパンチに徹する。
しかし、逆に、佐藤もそうされる事は分かっている。特にMAXの場合ラウンド数が少ないので特攻型のパンチャーが多い。ガード技術だけでなく、打ち合いのレベルも上がっていた。魔裟斗の畳み掛けるようなコンビネーションの隙間を縫って、綺麗にカウンターを入れる場面がチラホラ見受けられる。パンチからのローキックも鋭い。
魔裟斗の方は、とにかく強引に前身する。接近して固め打ちすれば倒せると思っていたのかも知れないが、打ち分けは結構雑だった。右ストレート→左フックという、わりと危なっかしいコンビネーションを躊躇無く何度も何度も繰り返す。とにかく攻める。
1Rはそのやり取りが拮抗していたが、2Rは絶え間なく放たれる魔裟斗のパンチを、佐藤がいよいよもらい出す。佐藤も負けじと打ち合いに応じ、いい攻撃を何度も入れるが、回転力に勝る魔裟斗に押されていく。
「やはり魔裟斗か」と思われた3R、一気呵成に攻め立てる魔裟斗に大振りのツケが巡ってくる。
佐藤にトドメを刺そうと無理矢理突進するも、振り回しの反対方向から来る佐藤のカウンターが何度も正確に魔裟斗の顔面を捉える。そしてついに右フック→左フックと連続してクリーンヒットをもらい、ダウン!
すぐに立ち上がって、その後再び攻め続けて盛り返すが…佐藤を倒すのには至らず判定に。
 
…さて、ここの判定が問題だ。
今回からK-1 MAXは「公正さを増すために」1R毎にジャッジの採点を公表するシステムを採用している。
3人のジャッジがいて、1Rは3人とも10-10の引き分け、2Rは3人とも10-9の魔裟斗を採っている。そして、3Rは8-10の佐藤が一人、8-9の佐藤が二人だったわけである。
合計して、28-29、28-28、28-28、佐藤が一人、引き分けが二人だ。二人以上のジャッジが同じ選手を優勢としない限り、試合は引き分けになる。このトーナメント戦の場合は延長1Rが行われる。
結果から言うと、延長戦は魔裟斗が意地で押し切って判定勝ちを収めるのだが、問題は上記の本戦3Rの判定だ。
 
実はこの3R目、佐藤からダウンを奪い返せなかった時点で、魔裟斗の敗北は決定しているはずなのである。
魔裟斗はフラッシュダウン(採点上は-1点)ではなく、完全に効かされてダウン(-2点)を喫している。実際にジャッジ3人とも3R目の魔裟斗に8点を付けている。
そして、K-1のルールブックには「必ず優勢の選手に10ポイントをつける」とある。
つまり、ダウンしたあとにいくら盛り返そうが、相手からダウンを取り返さない限りは「8-10」の判定は揺るぎない、はずなのだ。
が、御覧のとおり、なぜだか「8-9」を付けているジャッジが二人いる。
そして現に勝敗はひっくり返って、佐藤は健闘虚しく“敗退”してしまった。
試合後、記者からこの質問を受けた角田信明競技統括プロデューサーは、「指摘があって変更するというのも恐縮ですが、必ず優勢の選手を10にするということは、すぐに訂正したいと思います」と釈明(?)している…。
 
物事に白・黒・灰色とあるなら、これは完全に「黒」である。
いや、ただの格闘技好きとして見たら、最終的に佐藤の方が多くダメージは受けていたろうし、ルールブックに明記さえされていなければ3R目「8-9」の採点もまぁギリギリ解るのだ(とはいえ、ダウンを奪った選手がポイント減らされるなんてことはそうそう無い)。
ただ、スポーツとして見たら、これはぶっちゃけ「疑惑の判定」を通り越してしまっているだろう。
試合の内容自体は素晴らしかったが、後味の悪い決着となってしまった。
テレビ放送では当然カットされていたが、この判定に会場は怒号に包まれたそうだ。うーん…。
 
−準決勝第2試合−
× アンディ・サワー vs アルトゥール・キシェンコ
「あ…ありのまま今起こったことを話すぜ。『グランプリの準決勝だというのに最終ラウンドからしか放送されていなかった』。
な…何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…。
野球押しだとか臨時ニュースだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 」
 
−決勝戦
○ 魔裟斗 vs アルトゥール・キシェンコ ×
この試合も壮絶な打ち合いとなった。
1R、キシェンコは完全にロー狙い。魔裟斗の佐藤戦でのダメージを見越しての攻撃。蹴られる魔裟斗はダメージを見せまいとするが、脚が泳ぐ。左脚が効いているのは明らか。
対する魔裟斗もパンチからのインロー・アウトローでキシェンコの左脚を狙う。するとキシェンコの脚も固まり出す。キシェンコは腰を引きながらローをなんとかカットするが、こちらもダメージが露骨に表れていた。
両者時折鋭いパンチも入るが、魔裟斗がプレッシャーをかけてキシェンコが後手に回る場面が多かった。
2R、蹴り合いになると負けると判断したキシェンコが、ローを捨ててパンチでの捨て身の打ち合いに出る。魔裟斗もそれに応じるが、開始10秒で強烈な右ストレートをもらい、いきなりダウン!
起きあがった魔裟斗は、直後、ダウンしたことを感じさせない凄まじい打ち合いを演じる。キシェンコのパンチが再び顔面を捉えるが、構わず前進し左ジャブと右アッパーを執拗に放ちキシェンコにダメージを与えていく。ただし、近い間合いで互いに回転を速くしているため、1R有効だったローキックは思うように効かせ切れない。ひたすらパンチの応酬。
最終3R、ここに来て魔裟斗が本来のキックボクシング技術を発揮する。顔面・腹・脚へと打ち分ける。キシェンコは一発狙いのハイキックを放つが、悉くかわされ、結局パンチの返しとローに攻撃を絞る。
魔裟斗がやはり強引に前進し、互いにフラフラになりながらタイムアップ! 本戦終了、判定に。
 
別に私もそんな邪推したかないのだが、魔裟斗戦の判定がどう出るかはさすがに気になってくる。ダウンを喫した魔裟斗が再び引き分け以上の判定を得るのか否か。
というか、「ひょっとしたら、これ、本戦で魔裟斗勝つぞ」とすら思っていた。
1Rは10-10、10-9、10-9で魔裟斗に二人入れている。そしてダウンがあった2Rは8-9、8-9、8-9、当然三者ともキシェンコだが、やはり「8-9」というあり得ない採点が出てしまっている。
合計して、2R終了時点で、18-19、19-19、19-19、1点差でキシェンコが一人、引き分けが二人。つまり、3Rでジャッジ3人が全員10-9の魔裟斗をつけた場合、ダウンした魔裟斗がそのまま勝利してしまうのである。
既にルール違反ではあるのだが、K-1 MAXの姿勢が問われるわりと重要な判定だったと思う。
結果は28-28、28-27、28-28、一人だけ魔裟斗優勢で、引き分けに…。
…色んな意味で紙一重の判定だった。この時点で魔裟斗が勝ってしまうようなら、本当に誤魔化しが利かなかっただろう。
 
延長戦。
両者ダメージが大きいが、それでもさらに壮絶な打ち合いを続けていく。
互いにパンチを当ててはいるが倒しきるには至らない。決定打がないまま試合は終了した。
そして、積極性で勝っていた魔裟斗が10-9、10-9、10-9の判定でキシェンコを下し、5年ぶりの世界王座に輝いた。
 
準決勝、決勝と、試合自体は非常に見応えがあって面白かった。選手全員が互いに凄まじい意地を見せ、限界まで戦い抜いた。
が、総じて見た場合、誰が報われたのかよく分からない大会だった。
勝っていたはずの佐藤とキシェンコ、疑惑の王者と言われてしまう魔裟斗。全員死力を尽くして戦った事には違いないが、この結果に素直に感動できるのは、皮肉な事に「格闘技はよく知らないけど、なんとなく魔裟斗を応援していた」というような人だけだろう。
“シナリオ通り”に事を進めたはずの主催者側にも抗議が殺到している。真面目に見ていた視聴者も溜飲が下がらない。
本当に唯一の救いは「試合自体は面白かった」という事だけだ。
 
「ズルいな」と思うのは、K-1のダブルスタンダートな部分である。
選手のキャラを立たせて、その中である程度贔屓をし、際どい試合は勝たせたい選手に傾ける。如何にも“興行的”である反面、スポーツとして確立し、その中である程度きちんとルールを定め、公正に試合を行っている部分もある。
だから「格闘技はK-1とDREAMくらいしか見ない」という人にとっては、そもそも判定を疑う余地が無い。純粋に「面白かった」「○○選手が強かった」と言わせる事ができる。
逆に、格闘技が好きでわりと目の肥えてる人に対しても、K-1内部でホーム・アウェイが有る事に「まぁ仕方ないだろう」と物わかりの良さを求めることもできる。
開き直れば、一部の穿って視聴するような輩には「イヤなら別に見なくてもいいですよ」と言うことも出来る。
 
ただまぁ、格闘技の一層の発展を願う一ファンとして「もうちょっとその辺のバランスを修正した方が良いんじゃないの」と思う。
K-1が一つの“競技”であるとするならば、多少大袈裟だが、それを文化レベルで発展・定着させるためには、「品」か「力」のどちらかが要ると思うのだ。
つまり、競技としての厳粛さを以て広くそれを認められるようにするか、あるいは有無を言わさぬ金の力を介在させるか、そのどちらかである。
ぶっちゃけて言えば、他の格闘技・スポーツだってきな臭いことは山ほどあるわけだが、例えばオリンピック種目として認められようとすれば、競技そのもの、また主催団体そのものの健全化を図るだろう。例えば多額の金が動く興行(引いては産業)に発展させようとすれば、それが賭け事であれルールの取り決めは非常にタイトなものになってくるだろう。
…まぁ、それは極論として、目先のスター選手を勝たせる事だけに躍起になってたら、それは興行として「レベル低いな」と言われても仕方がないわけである。
K-1イベントプロデューサーの谷川貞治さんも、仮にもプロデューサーなんだから、贔屓丸出しの解説なんてしない方がいいと思うのだが…。そういうところが安っぽいんだよな。
 
…今回も無駄に長文になってしまった。もう、完全にテレビを見て文句を言うオッサンである。
思いついたことを何でもかんでも書こうとするとまとまりがない。
では、また来週!

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